観客のエネルギーが舞台に変化を起こす「客席のすすり泣きする声で私もさらに感情が表に出て、芝居が変わったりする」
狂気か、純愛か。篠原さんは一方的な愛の形にも美点を見いだした。
「“女”は、彼に振り向いてもらえなくても、“全部私が悪いのです”と内助の功のように、彼に寄り添っていきます。“私はこれほどまでに彼を愛している。それだけで十分なんだ”と、思える彼女の包容力がすごいですね」
同時に、演じる人物に共感できなくても「共感し過ぎて、すべて分かった気になってしまうのもつまらないですね」と篠原さん流のロジカルな役者論も明かす。
「空想を広げて役を作ってみるからこその楽しさもあり、でも一方で篠原涼子という生身の人間が、経験を元手に演じるからこその真実味があって、お客様に伝わります。どこまで自分の経験・知見を出すべきなのかの試行錯誤が、俳優として必要なプロセスだなと思います」
舞台ならではの、生の緊張感にも期待する。
「どんな角度からも見られていますし、幕が上がれば下りるまで、1時間、2時間とノンストップで続くスリリングさもあります。稽古で作ってきた空気にお客様が加わることで、エネルギーがまとまって生まれる力が、舞台のすごみだなと思います。
舞台と客席の感度が合う瞬間もあって、客席のすすり泣きする声で私もさらに感情が表に出て、芝居が変わったりするんです。結構、見ている皆さんの空気感も伝わります」
今作では、手紙を読んでいる篠原さんと、男として踊る首藤さんの二人芝居で舞台が進んでいく。
「私が手紙を1枚1枚読み終わったら、舞台の上に捨てていくという演出です。散らばっている手紙が積もっていって、客席から見たら幻想的な景色になるかも。もし間違えて客席に落としてしまったら、お客様に持って帰ってもらえるんでしょうか(笑)。一緒に舞台の醍醐味(だいごみ)を味わっていきたいですね」
生の演劇で、篠原さんが見せてくれる愛の形に興味は尽きない。