ふと気づいたら、木村多江はテレビや映画に欠かせない俳優として存在していた。映画では作品ごとに違った顔を見せ、テレビでは、ドラマはもちろんのこと、NHK教養番組ではナレーションやナビゲーターを務め、『LIFE〜人生に捧げるコント〜』などではコメディエンヌとしての才能を発揮。最新作のドラマ『昔はおれと同い年だった田中さんとの友情』では、小学6年生の息子を持つ、大阪の“お母ちゃん”を演じる彼女には、何度もCHANGEの瞬間が訪れたという──。【第1回/全5回】

木村多江 撮影/有坂政晴

「遅くなって、ごめんなさい!」取材部屋に駆け込んできた木村多江が、ほんの少し息を弾ませながら、でも穏やかな声でそう告げると、梅雨空のもったりした空気に、清涼感のある風が吹いたような気がした。そして、

「THE CHANGEさんですよね。わたしの最初のCHANGEは……そうね、職業欄に“舞台役者”と書いたときだと思います」

と、記憶をたどるように語り出した。

「わたしは、人とコミュニケーションをとるのがあまりじょうずじゃない子どもで、思ったことを表現したり、意見を口に出すのが苦手だったんです。でも、習っていたクラシックバレエで踊るときは、自分を表現できたし、中学で入った演劇部でお芝居をするときは、役を通して自分が発言しているような気持ちになれた。踊ることと演じることがなかったら、わたしは息ができないと感じていました」