“あれくらいだったら僕にもできるよね”という感じの芸をやっているから

ーーはっきりと、「手品じゃない」と。

「そうですよ。あとこれも手品じゃないんですけど、“グラスにコカ・コーラを入れて、ハンカチをかけてグラスを3回まわすと、ペプシコーラに変わる”というの。これを"逃げ”だと思う人もいるかもしれないですが、自分なりに理屈は考えているの。“コカ・コーラからペプシコーラじゃなきゃダメなんだよな。ペプシからコカじゃダメなんだよ”とかね。これは世界中、海外に行ってもお客さんが喜んでくれますね」

 独特の世界観から繰り出される、マジックではないマジシャンのショー。たしかに、「弟子に教えられない」というのも頷ける。

「でもね、“弟子にしてください”という人がきたら、よっぽどじゃないと断らないんですよ。みんな結局、尊敬してきているわけでもなんでもないので」

ーーなぜそう思いますか?

「僕は“あれくらいだったら僕にもできるよね”という感じの芸をやっているからさ。“あれで生活が賄えるなら、弟子になろう”と思っていると思うよ。でも、なかなかね。そうはいかないんでね。だからみんな苦労はしているんだよね。楽そうに見えるし、別に大したことやってないんですけど」

ーーでも、マギーさんと同じことは絶対にできない。

「だからこそ、教えられないんですよね。不思議ですよ」

 そんなマギーさんの元に、かつて、吃音を持った弟子入り希望者が訪れたことがあった。

「マジックならそんなに喋らないから、舞台に立てるかなあと思ったそうで。舞台に立つようになったら、その子、吃音が治ったんです。でもさ、治ったらいいのかといったら、それがわからないんだよ。それまでは女の子に声をかけられなかったけど、治ったらそれまで溜まっていたものがはじけて女の子にバンバン声をかけるようになって、モテるようになったの」

ーーそれはいいことではないのでしょうか。

「うーん、でもさ、少しマイナス面があったほうが、大事に生きるんだろうな、と僕なんかは思っているからさ。マイナス面はあったほうがいいんじゃないかなあとは思うよね。その子にはホテルの舞台を1ヶ月間お願いしたんですが、酒もたくさん飲むようになって、舞台にべろんべろんで上がるようになっちゃって。そうすると少し歯車が崩れるんだよね。だからね、すこーし、マイナス面は持っていたほうがいいような気がするんだよね」

ーーそのバランスが難しいですね。

「難しいよね。もうひとり、子どもの頃にたびたび入院していたという子が僕のところに弟子入りにきて。たまたまコマーシャルに起用されたんです。そうしたら吹っ切れちゃったんだよね。ちょっと生意気になってしまって。だから人間って、満足せずに、"もうちょっとでなんとかたどり着けそう、だけどたどり着けない”という状態のほうが、いい気がするんだよ。特に芸人はね」

 師匠でありつつも、弟子たちから「ダイレクトにいろんなことを学んでいる」というマギーさん。マジックのテクニック以上に、芸人には大切なことがあるのだと、教えてくれているようだった。

(つづく)

マギー司郎(まぎー・しろう)
1946年3月17日生まれ、茨城県出身。1968年、正統派マジシャン・マギー信沢に入門。1980年に『お笑いスター誕生!!』(日本テレビ系)で7週連続勝ち抜きしたことを機に、テレビでも活躍。翌年、放送演芸大賞ホープ賞を受賞。2004年に出演した『課外授業 ようこそ先輩』(NHK総合)が話題となり、同番組は同年に日本賞「教育ジャーナルの部・東京都知事賞」を受賞した。親しみやすい芸風と茨城なまりのしゃべりで、老若男女に愛される存在。『笑点』(日本テレビ系)2016年時点での最多出演者。

【イベント情報】
歌って元気!笑って健康!
秋の演芸フェスティバルVOL.1
●日 時:2024年9月17日(火) 開場14:00 開演15:00
●会 場:渋谷区文化総合センター大和田さくらホール(4F)
●入場料:全席自由4,800円
●問合せ:プロジェクトドーン
     E-mail:projectdawn123@gmail.com
●主 催:プロジェクトドーン
●協 力:(有)プロモーション・ススム
     (株)ジョリーアンリミティッド