2022年の『M-1グランプリ』優勝以来、さまざまなバラエティで活躍するウエストランド井口浩之。ツッコミはもとより、愚痴と文句を言わせたら右に出るものがいない口達者ぶりで、仕事は引きも切らない。その文句言いぶりゆえに見落とされがちだが、実はウエストランドはデビュー間もない頃からテレビで着実に結果を残してきた駿才でもある。これまでの芸人人生で井口が感じた、「THE CHANGE」とは――。【第5回/全5回】

ウエストランド井口浩之 撮影/石田寛

 「全然、天才だと思われないんですよ」と憤懣やる方ない様子でウエストランド井口が言う。そう怒るのも無理はない。事務所に所属して1年足らずで『オンバト+』(NHK)に出演、2012年からは3年連続で『THE MANZAI』(フジテレビ)認定漫才師、2013年からは『笑っていいとも!』(フジテレビ)レギュラー入りと、ウエストランドの経歴は初期から華々しいものだからだ。

「僕らの世代で『オンバト+』に出ていた人なんて、ほとんどいないんです。何年か前に『オンバト』の特番がありましたけど(2019年3月23日放送『爆笑オンエアバトル20年SPECIAL ~平成最後の年に一夜限りの大復活!~』)、先輩がネタやってるのを、僕らは当時のレギュラー組として審査しましたからね。だから芸歴が相当長いと思われてるんですよ。めっちゃ早くから出てただけなのに」

 若いうちから結果を残してきたことの弊害は、当時の活動の中核だったライブシーンにおいて大きく現れた。

「お笑いファンから全然応援されないんですよ。だからとにかくライブでウケなかった。当時のライブでは、その少し前の時期から『オンバト』で活躍してたトップリードさんあたりがめちゃくちゃ人気でしたね。和賀(勇介)さんが神様みたいな……そんなわけないじゃないですか、よく考えたら。バカなんですよ、お笑いファンって。で、そういう人たちが“下の世代も見てみるか”って僕らが出てるライブにも来るんですけど、そこでは三四郎、ドリーマーズ、浜口浜村とかが人気で。“私が支えなきゃ”って思わせる人たちですよね。僕、お客さんをとっ捕まえて“なんで俺らを応援しないんだ”ってよく聞いてました。そしたら“ほっといても大丈夫でしょ”って言われるんですよ」

 10年以上前の話をしているはずなのに、昨日のことのように新鮮に怒っている。これが井口のすごさだ。ただ、お笑いファンが一方的にウエストランドを嫌っていたわけではない。井口も井口で、この頃は相当な無法者だった。

「呼ばれてないライブに行って勝手に出たり大暴れしてたんで、めちゃくちゃですよね。最悪の人間でした。そりゃ応援されないですよ。先輩からもめちゃくちゃ嫌われてたし、お客さんのアンケート100枚全部に“井口黙れ”“うるさい”“出るな”って悪口書かれてたこともあったし。なんでそれで続けられてたんでしょうね?(笑)全然、自分では笑ってましたけど」

 その状況から、人気とまではいかないが徐々に認められるようになっていったのは、それを徹底して貫いたからだった。

「裏でも表でもずっとツッコみ続けてました。もともとそういう性分っていうのもありますけど、やっぱりそこはサボらないって決めていたというか。そうしたら、だんだんみんな“すごいな”って認めてくれるようになりましたね」

 2014年に『オンバト+』が終了し、2015年からは『M-1』が復活。そこでウエストランドは2020年に初決勝、そして周知の通り2022年に優勝を果たし、第18代チャンピオンに輝いた。だが、漫才師なら誰もが羨む栄光を手にしても、井口は変わらない。

「僕らの世代って本当に不遇なんですよ。なんのブームもなくて、ずっと氷河期だった。あ、吉本以外ですよ。今じゃ吉本は若手もカネ持ってて……本当に最悪ですよ! 何一つ良いことがない。お笑いを始めてから今日まで、ずっと最悪です」

 満たされる日はいつか来るのだろうか。いっそ来ないでほしい、なぜなら多分そのほうが面白いから――身勝手にそう思ってしまうのは、こちらがバカなお笑いファンゆえなのだろう。

(つづく)

文=斎藤岬

井口浩之(いぐち・ひろゆき)
1983年5月6日生まれ、岡山県津山市出身。中学・高校の同級生だった河本太と2008年にウエストランドを結成。『M‐1グラプリ 2022』優勝。現在のレギュラー番組に『耳の穴かっぽじって聞け!』(テレビ朝日)。WEBメディア「お笑いナタリー」にて「今月のお笑い」連載中。

YouTubeチャンネル「ウエストランドのぶちラジ」https://www.youtube.com/channel/UCzl4h03AILVdySSbw6hREhg