40歳を過ぎた頃から、死について毎日考えるようになりました
でもここで折れると作品に嘘をついたことになって、編集のときに後悔するんですよ。そんな作品を観客に見せるのは失礼だし、お客さんが喜んでくれなければ最終的には演者も損をする。だから踏ん張りました。浅野さんは「わかりました、もう一回やらせてください」と真摯に取り組んでくれて、本当にありがたかったです。こういうことができるようになったのも、いっぱい恥をかいて経験してきたからこそでしょうね。

僕は「若い頃に戻りたい」って思ったことが一度もありません。いつだって“今”が人生でいちばん最高。もちろん肉体的には若い頃のほうができたことが多いけど、今は経験も知識もあって、あの頃よりいろんなことがやれるようになっています。老いることをマイナスに捉えたくないんですよね。受け入れて、老いと一緒に歩いていこうと思ってます。
40歳を過ぎた頃から、死について毎日考えるようになりました。それはネガティブな意味じゃなくて、「いずれ死ぬのは決まっているからこそ、毎日一生懸命生きなきゃ」と思っているんです。若い頃は明日が来るのが当たり前だと思っていたけれど、年を重ねて、同級生が不慮の事故で亡くなったり仕事の関係者が若くして病気で亡くなったりすることが増えました。「先週飲んだのに」なんてこともある。亡くなった本人は、そのときは自分が死ぬなんて思ってなかったはずです。それは僕も同じで、だけど来週、死ぬかもしれない。だから常に「明日は我が身」と思って生きていないともったいないな、って。
家の台所に「ヒヌカン」という沖縄の火の神様を置いていて、毎日線香をあげて手を合わせてます。亡くなった両親や友達の名前を一人一人心の中で読み上げて、最後に「今日も一日頑張ります」と言う。そして毎日「脚本を2ページ書く」とか「ストレッチを30分する」とか、やるべきことをスマホにメモっておいて、1日で何ができたか確認するのが日課になっています。ダラダラ過ごしていたら、志半ばで亡くなった仲間たちに対して申し訳ないですからね。
照屋年之(てるや・としゆき)
1972年生まれ、沖縄県出身。映画監督・芸人・俳優。ゴリの芸名で1995年にお笑いコンビ「ガレッジセール」を結成、2006年から映画監督のキャリアをスタート。初監督作品の短編映画『刑事ボギー』でショートショートフィルムフェスティバル〈話題賞〉を受賞。2018年に製作した映画『洗骨』はモスクワ国際映画祭、上海国際映画祭などの映画祭に出品され、日本映画監督協会新人賞を受賞。
映画『かなさんどー』
7年ぶりの帰郷。見つけたのは、今は亡き「母の日記」。記憶の糸をたぐり、今、止まっていた時計が再び動きはじめる――。沖縄県・伊江島を舞台にした、郷愁漂う映像美。監督独自の死生観と笑いを交えて描く、愛おしくて切ないヒューマンドラマ。
監督・脚本/照屋年之
出演/松田るか、堀内敬子、浅野忠信、他
2月21日(金)より全国公開中!!
配給:パルコ
(c)「かなさんどー」製作委員会