俳優を自然に導く

 それは、脚本の完成度が高いことを意味する。

「脚本を読んで、映像になった時にどういう風になるんだろうってワクワクすることがあるんですけど、今回は、この脚本と監督と私たち演者がいれば、きっと物語の立ち上がりにもエネルギーを使わずにいられる……そのままの力を注ぐことが出来るだろうと思ったんです。例えば、読んでいて、なんで日向はここでこうなるんだろう、なんでこんなセリフを言うんだろう……といった疑問がほとんど湧かなかったんです」

 実際、撮影現場では内山拓也監督は出演者と一緒に考えることで高めを目指し、並走することが大事だと考えていた。

「クランクインする前に、何かを話し合ったりということはなかったんですけど、その都度、そのシーンごとで確認みたいなことがありました。内山監督は“こういうシーンだからこうして欲しいんだ”という演出をされるのではなく、もっと真に迫ることを言ってくださるんです。日向の話をしているのか、私の話をしているのか判らない……その場を取り繕う言葉じゃなくて、生の言葉をかけてくださったという感覚がありました。特別、こうして欲しいと言われなくても自然と気持ちがそこに乗る感覚、俳優を自然に導く……とでもいうんでしょうか。不思議な方でしたね」

 演じた日向という女性をどう捉えていたのか。

「全てを背負っていく女性だというのは脚本を読んだ時から感じていました。一生懸命に誰かを支えているという感覚でもなくて、本当に一生懸命に生きている人なんだと感じ取れたんです。どんな状況に置かれても、”美しさ“を探しているところがある。内山監督からは、“日向はずっと感情を我慢して欲しい”って言われたんです。それで耐えなきゃいけないこと自体は辛かったですね。でも、内山監督からの“その感情は間違っていない”というアドバイスがあって、私が日向に近づく……というよりも私の方を肯定してくれる感じがあったんです。それで私も自分が日向なのか私なのかがちょっと判らなくなってしまう感じもあり。それは初めての体験で、メンタル的にもちょっと削られたところもあったんですけど(笑)」

岸井ゆきの(きしい・ゆきの)
1992年2月11日生まれ。神奈川県出身。2009年にドラマで俳優デビュー。映画初主演となった『おじいちゃん、死んじゃったって。』(17)で第39回ヨコハマ映画祭最優秀新人賞を受賞する。恋愛への執着が強いヒロインを好演した『愛がなんだ』(19)では第11回TAMA映画祭最優秀新進女優賞および第43回日本 アカデミー賞新人賞を獲得。耳の不自由なプロボクサーを演じた『ケイコ目を澄ませて』(22)では、 第46回日本アカデミー賞をはじめ、第77回毎日映画コンクールなどで数多くの主演女優賞を受賞。そのほか主な出演作には『友だちのパパが好き』(15)、『やがて海 へと届く』(22)、『神は見返りを求める』(22)、『犬も食わねどチャーリーは笑う』(22)、『アット・ザ・ベンチ』(24)など。ドラマでの近作には『日曜の夜ぐらいは…』(23)、『大奥 Season2』(23)、『お別れホスピタル』(24)がある。

●作品情報
映画『若き見知らぬ者たち』豪華版 DVD
出演:磯村勇斗 岸井ゆきの 福山翔大 染谷将太 伊島空 長井短 東龍之介 松田航輝 尾上寛之 カトウシンスケ ファビオ・ハラダ 大鷹明良 滝藤賢一 / 豊原功補 霧島れいか
原案・脚本・監督:内山拓也
リリース日: 2025年04月11日
価格: ¥6,600(税抜価格 ¥6,000)
発売元: TCエンタテインメント
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