僕は男の気持ちも女の気持ちも理解できる

 それはたぶん、役者としての経験があったからだと思います。役者はキャラクターごとに異なる人格を演じます。そのため、演出をするときも、脚本を書くときも、「このキャラはこういうしゃべり方をする」「このシーンはこういうテンポで進むべきだ」と、感覚的に理解できたんですよね。登場人物が5人いたら、頭の中でそのすべての役を演じられるんです。それに僕はゲイですから、男の気持ちも女の気持ちも理解できる。

 音響監督として新海誠監督の初期の作品にかかわったことがあったんですが、そのときはまず監督の前で僕が演じて、監督の中でも抽象的だった役柄のイメージを具体化する作業をしました。

 ゲイについては、昔から隠していたわけではありませんし、僕にとっては、「僕はA型です」と言うのと同じくらい自然なことでした。

 ですが、2017年にテレビのバラエティ番組で、自分のセクシュアリティについて話したところ、「三ツ矢雄二、ゲイをカミングアウト!」とニュースになりました。正直「こんなに大騒ぎになるのか?」と驚きましたね。

 ただ、それがきっかけでLGBTQ+に関する講演の依頼が来るようになり、ユーチューブやラジオでも「セクシュアリティについて話してほしい」と求められるようになりました。もし、僕の話を聞いて「こんなふうに生きている人もいるんだな」と思ってくれる若い人がいるのなら、それはそれで意味のあることなのだと思います。

 今は70歳です。これからは、小さなライブでもいいので、ジャズを歌う機会を持てたらと考えています。また、小説の執筆にも挑戦したいですね。自分のペースで活動を続けていきたいです。

三ツ矢雄二(みつやゆうじ)
1954年10月18日、愛知県生まれ。子役として活躍し、上京後、蜷川幸雄のもとで舞台俳優として活動するかたわら、NHKの人形劇『プルルくん』をきっかけに声優デビュー。さらに、劇団の主宰、脚本家、演出家、編集者などマルチな才能を発揮する。現在はColoso.(動画配信サイト)にて「三ツ矢雄二の声優予備校」を配信中。近著に『曲のない詞』(ネルケプランニング)。