はっきりと覚えている祖母の最期
――『うぉっしゅ』では孫に介護される役でしたが、研さん自身、子ども時代におばあさまを介護した経験があると聞きました。その経験はご自身にとって大きなものでしたか?
「大きいですね。だって一緒に生活してたんですよ。生きてたんです。忘れちゃいけないですよ。それがおばあちゃん孝行だと思っています。私がね、最期を看取ったんです。“おばあちゃん、お昼ご飯だよ”と持って行ったときに、涙をぽろっと1滴流して、そのままフッと行っちゃった」

――研さんが、というのは、そのとき1対1だったのですか?
「そうです。お昼ご飯のときで、みんなは別の部屋にいました。おばあちゃんの介護は私の役目でしたから、そのときもおばあちゃんを見に行って。“おかあちゃん! おばあちゃんが!”と叫んだと同時に、“うえーん”と泣いてました。すると駆け付けた母に“お前は外に行ってな”と。私は外に飛び出して、道路を渡った先で“うえーん”と泣いていましたね」
――はっきり覚えていらっしゃるんですね。小学生の頃のことですか?
「そうです」
――おばあさまに可愛がってもらっていた?
「可愛がってというか、信用してくれていたと思います。学校から帰ると、“お菓子を買ってきてくれるかな”と、お財布からお金を渡してくれるんです。子どもにそんな普通はお金なんて渡さないですから。“わかった!”とそのお金をグッと握りしめて、買いたいものを買って帰ってきて、おつりをおばあちゃんに渡すと“ありがとうね”と。そのおばあちゃんがいなくなちゃった。本当はもっともっと長生きしてほしかった。私にとっておばあちゃんとの時間は短かったです」
――おばあさまは、おいくつぐらいで。
「70代でした。母は97歳まで頑張りました。長男だった兄も先に行ってしまいました。兄は私とそんなに年が離れてないのですが、家のことも頑張ったから。“ご苦労さま、ゆっくり休んでね”と。この世を去ってしまった両親や兄弟、おばあちゃんにおじいちゃんのこと、私は絶対に忘れません」
研さんは、穏やかに、しかししっかりと口にした。
(つづく)
研ナオコ(けん・なおこ)
1953年7月7日生まれ、静岡県出身。1971年に「大都会のやさぐれ女」で歌手デビュー。1975年には「愚図」でFNS音楽祭・最優秀歌謡音楽賞を受賞した。「かもめはかもめ」(1978)で日本歌謡大賞放送音楽賞、日本レコード大賞金賞ほかを受賞。ほか数々の大ヒット曲で知られる。歌手活動以外にも、タレントや俳優として幅広い分野で活躍し、近年はSNSでも人気を集める。デビュー55周年の2025年は、記念アルバム『今日からあなたと… Starting today, with you』を発売。9年ぶりの映画主演作『うぉっしゅ』が全国公開中。
●作品情報
「うぉっしゅ」
監督・脚本:岡﨑育之介
出演:中尾有伽、研ナオコ
配給:NAKACHIKA PICTURES
新宿ピカデリー/シネスイッチ銀座 他 全国にて絶賛公開
(C)役式
公式サイト: https://wash-movie.jp/