長編3作で描かれるのはいずれも何かが“CHANGE”する瞬間

 これまでに発表した長編は、西南戦争を舞台にしたデビュー作『へぼ侍』、戦後わずかな期間だけ実在した大阪市警視庁を題材にした2作目の『インビジブル』、本土復帰直前の沖縄を描いた『渚の螢火』の3作。舞台は違えど、いずれも時代の転換点、何かが“CHANGE”する瞬間を描き続けている。

「やっぱり時代の変わり目は面白いですよね。いろんなことがガラガラと変わりゆく激動の時代をどう料理するのか、そこに興味があるのだと思います。近い時代を舞台にすると、当時を知る方が多いためツッコミも入りやすくなりますが、その分資料もたくさんあります。こうした混乱期こそ大事件も起きやすいですし、小説の舞台として魅力を感じます」

 『渚の螢火』に続く、4作目の長編も現在構想中だという。

「ずっと考えていますが、仕事が忙しくてなかなか書けなくて……。とはいえ、引き続き昭和を舞台に書きたいと思っています。次回作は、昭和3、40年代を描くことになりそうです」

 坂上さんは1990年、つまり平成2年生まれ。昭和を体感していないからこそ、この時代に興味があるという。

「幼少期はまだ昭和の延長線上にあり、当時の空気を濃厚に感じていました。その一方で、平成初期に起きた地下鉄サリン事件、阪神・淡路大震災も記憶に残っています。“昭和ってもう自分たちの時代じゃないよね”と思いながらも、あの時代の残り香も知っている。昭和にどっぷり浸かってきた世代ではないからこそ、ある程度距離を取った昭和の小説を書けたらと思います」

坂上泉(さかがみ・いずみ)
1990年、兵庫県生まれ。東京大学文学部日本史学研究室で近代史を専攻。卒業後、一般企業に勤務するかたわら2019年「明治大阪へぼ侍 西南戦役遊撃壮兵実記」で第26回松本清張賞を受賞。同作を改題した『へぼ侍』(文藝春秋)でデビュー。2作目となる『インビジブル』は第164回直木三十五賞候補に。同作は、第23回大藪春彦賞、第74回日本推理作家協会賞【長編および連作短編集部門】を受賞した。

(作品紹介)
連続ドラマW 1972 渚の螢火
10/19(日)放送・配信
毎週日曜午後10:00
※第1話無料放送(全5話)
出演:高橋一生
青木崇高 城田優
清島千楓 嘉島陸 佐久本宝 広田亮平 MAAKII 北香那 Jeffray Rowe 藤木志ぃさー ベンガル
沢村一樹 小林薫
原作:坂上泉『渚の螢火』(双葉文庫刊)
監督:平山秀幸 脚本:常盤司郎 倉田健次 音楽:安川午朗
制作プロダクション:東北新社 製作著作:WOWOW
公式サイト: https://www.wowow.co.jp/drama/original/1972nagisanokeika/