2024年、全国13か所の公演で好評を博した舞台『大誘拐』~四人で大スペクタクル~が2025年の秋、帰ってくる。本作で主人公となる戸並健次を演じるのは中山優馬さん。柴田理恵さん、風間杜夫さん、白石加代子さんという演劇界のレジェンドともいえる顔ぶれとの再びの共演に「前回は不安感もあったんですけど、今回はちょっと違いますね。わくわくしてます」と笑顔を見せる。キャリアを重ねる中で身に付けた自信とその転機となった瞬間をたっぷり語ってくれた。【第2回/全3回】

いまや演劇の世界で確固たる地位を築いた俳優・中山優馬さん。これまでの役者としての仕事を振り返って、転機となった作品や人との出会いはどこになるのだろう。
「22歳のとき、初めて主演を務めた『ドリアン・グレイの肖像』(2015年)は転機でした。それが本格的な舞台という意味では初めてだったんですね。今まで僕が経験したエンタメとは見る景色も何もかも丸ごと違ったんです。
“決まりごとがあるようでない世界なんだ”というのを知った舞台でした。セリフも決まっているし、もちろん動きも決まっているんですけど、そうならない瞬間が多くあって、それをやらない役者さんもいるんです。
正直、“なんでやらないの?”って思ってたんです。稽古したことを劇場でやるもんじゃないの?って。というのは、ダンスとか歌って積み重ねた稽古で一番良かったものを本番で出せるかっていう世界だと思うんですよね。
でも、お芝居では稽古場で作ったものはあくまでベースであって、そのベースを一旦舞台上では取っ払って、感情でやるというか、生(なま)で発展させていく形なんです。そういう役者の皆さんの姿を見て、僕が行こうとしている世界はこういうことなんだ。大変だけど、すごく楽しいぞ、と思ったんですよね」
役者として、板の上でのあり方を現場で体に刻む機会は続く。
「あとは、小川絵梨子さんの演出による『ダディ』も自分にとっての転機になったと思います。小川さんからは、“とにかくセリフを手放しなさい”という演出をずっと受けていて、それはかなり苦しいことなんですけど、重ねていくと“これだ!”と思う瞬間もあったり。そういう再現性を持ってできるように稽古していくという新たな方法が見つかったし、こういう形でいけるんだ、というのをつかんだ感じもあって、自分の中で一つの変革でした」