昨年放送された『濱田祐太郎のブラリモウドク』(ABCテレビ)が2025年の日本民間放送連盟賞で高く評価され、6月には初の自著『迷ったら笑っといてください』(太田出版)を上梓した、先天性の視覚障害を持つお笑い芸人・濱田祐太郎。18年に、『R-1ぐらんぷり』第16代王者に輝いた実話漫談の切っ先は、テレビ制作者に視聴者に、爆笑と少しの「居心地の悪さ」をもたらす。盲目の濱田にしか持ちえない経験と視点で、自身の過去における「THE CHANGE」を聞いた。【第4回/全5回】

濱田の人生が変わった日はいつか。質問を向けると、「R-1グランプリで優勝した日です。今考えても、優勝していたとしていなかったでは全然違うので」という答えが返ってきた。
それまでは劇場の出番が月に数回ある程度だったのが、優勝したことで幅広い仕事が舞い込むようになった。全国放送のドラマにレギュラー出演が決定し、ネタ番組やロケ番組、新聞からコラム執筆のオファーも届いた。
「優勝したことでいろんな人が知ってくれて、何組1セットじゃなくても濱田祐太郎に話を聞きたいということで営業に呼ばれるようになりしました。それまで“目が見えへんけどお笑いやっている芸人がいるぞ”ぐらいの存在だったのが、優勝したことで濱田祐太郎という唯一無二の芸人なんだと認められるようになった感じですね。
劇場でもその芸人を知っているか知っていないかでお客さんの笑いやすさって変わってくるので、最初から知ってくれてるのは大きなアドバンテージになる。だから劇場でウケやすくもなりました」
しかし、いきなり準決勝まで駒を進めた初舞台から優勝までには6年の隔たりがある。そこまでの道は平坦ではなかった。最初に躓いたのは、NSCの授業だ。
「ネタ見せの授業でアドバイスする講師の先生は、“後半伏線回収して”とか、“最後たたみかけて”とか、作り込むネタのことしかわかっていないんですよ。僕は本当にあったことをしゃべるスタイルの漫談をやっていたから、なかなか噛み合わなかったですね。別に生きててそんな後半たたみかける出来事なんて起こらへんし。
そういう話ばかり聞かされているから、NSCにいる間は自分らしい生々しいしゃべりがだんだんできなくなっていきましたね。在学中、“去年準決勝まで行っているし、今年は決勝までいくんや”という気持ちでR-1の予選に出たら2回戦で落ちて。自分らしい喋りができひんくて、不完全燃焼でした。NSCはやたらダンスの授業があるので、それでフォームを崩した可能性もあります」
NSCを卒業した生徒は、オーディションライブに参加し、勝ち抜くことで劇場所属を目指す。そこにたどりついて初めて「吉本所属の若手」と世間から認められるようになるが、濱田は所属するまで4年間の歳月を要した。
「最初の1年目2年目は、芸人になれた夢を叶えた嬉しさがずっとありました。でも、それからオーディションライブを受けてたら、審査員に“おまえは目が見えない。それだとジェスチャーゲームや大喜利のコーナーに対応できないから、劇場にはあげない”と言われたんですよ。そう思うのは勝手ですけど、それを周囲に強制したら差別になるじゃないですか。その時あらためて、今までバラエティに出ている障害者があまりおらへんかったなと思い出しました。 これは障害のある人でお笑いの能力が高い人がいないのか、それともその審査員のようにテレビ局側が使わないと決めているのかがわからなくて。もし理由が後者だとしたら、俺は能力があったとしても世に出られへんかも……という不安を感じるようになって、その頃が一番しんどかったですね」
それでも濱田は「自分が面白くない」とは考えなかったという。
「舞台に出てウケることもあればスベることもあります。でも、ネタをやったらお客さんは笑ってくれるし、素人のときにR-1の準決勝まで行っていますし、そこまで深刻に考えることはなかったです。
芸人を辞めようとも思いませんでした。他に何するか考えた時、やりたい仕事もできる仕事もたぶん俺にはないやろうから、10年は続けてみようとは思っていましたね。それは芸人になる時に決めてました」
その後、濱田の行く先を阻んだ審査システムは変更。審査員の評価以外に客の投票も加味されるようになると、濱田はすぐさま勝ち抜いて劇場所属メンバーになった。
(つづく)
濱田祐太郎(はまだ・ゆうたろう)
1989年、兵庫県生まれ。NSC大阪校35期生として、2013年にデビュー。2018年3月に『R-1ぐらんぷり』で優勝。今年5月には吉本新喜劇とコラボした舞台『盲目のお蕎麦剣士が巻き起こす新喜劇』に主演。趣味はギター。好きなものはサンリオ。
■インフォメーション
『迷ったら笑っといてください』
著:濱田祐太郎/発行:太田出版
『濱田祐太郎のブラリモウドク ―盲目芸人のブラリ旅in熱海 1時間スペシャル!濱田の目に夏の熱海はどう映る?―』
https://tver.jp/episodes/eptbmr0fs5
盲目のピン芸人 濱田祐太郎の街ブラバラエティが1時間特番になって帰ってきた!今回はブラリ熱海旅スペシャル!観光客賑わう食べ歩き商店街、海鮮グルメを堪能!さらに人生初のシュノーケリング体験や、20年ぶりの自転車運転も!果たして濱田の目には、熱海はどう映るのか?そして、濱田の唯一無二の武器、「毒舌」=「モウドク」を思う存分発揮しながら熱海の魅力を発見できるのか?