2020年2月11日、真打昇進と同時に講談の大名跡である神田伯山を6代目として襲名した神田伯山。二ツ目時代から独演会では新進気鋭の講談師として注目を浴びていた彼の「CHANGE」に迫った。【第2回/全2回】 

神田伯山 撮影/弦巻勝

 尊敬する気持ちが強すぎて、師匠に入門をお願いしに行くときは、落ちたら死んじゃうくらい高いビルとビルの間を思いきり跳ぶような気持ちで。あんなに緊張したのは、あのときが最初で最後です。

 人に気を遣うことができない僕にとって、修行期間の4年は、正直、地獄のような日々でした。自由に翔ける二ツ目からが勝負! 心に決め、叱られない程度に雑用をこなし、最後は、畳の目を数えながら、どうにかやり過ごすことができたのも、師匠のおかげです。今、ここにこうしていられるのは、師匠選びを間違っていなかったという証です。

 2020年2月11日、晴れて、真打に昇進。六代目神田伯山を襲名した僕の今の持ちネタは200ほど。電車の中でお化粧をしている女の人がいますが、僕も若い頃はよく、電車の中で稽古をしていました。電車の中って、集中できるんです。『寛永宮本武蔵伝〜狼退治』という話では、集中しすぎて、狼のポーズをしながら、思わず、「ウォーン」と遠吠えをしてしまい、周りからドン引きされたほどです(苦笑)。

 もちろん、一年中、稽古をしていないと、話を忘れてしまいます。今はまだ大丈夫ですが、これからは記憶力との戦いになるんだろうなと思うと……ちょっとだけ憂鬱な気持ちにもなりますが(笑)。

 江戸の幕末から明治にかけて隆盛を誇った講談は、江戸だけで200を超える講釈場がありました。それが、今はゼロです。『落語芸術協会』の正式な会員でもあるので、寄席に出させていただいていますが、メインは落語家さんで、僕ら講談師は主任も取らせていただきますが、どこか遠慮もあります。自分たちの城を持っていない浪人です。