「迷ったら食う」

 変わるためには、どうすればよいのか。

「誰もが迷う時があるのでしょうね。私の個人的な経験から敢えて言いきるとすれば、自分の心に向かい合い、本当に好きなことややりたいことを選んだほうがいいと思います。たとえば、現在の会社を辞めて、このようなことをしたい。それができる会社に転職をしたい。だけど、少々迷うものがある。

 こう思うならば、動いたほうがいい。転職する。「迷ったら食う」と私はかねがね思っています。

 転職だけでは、ありません。たとえば、同じ会社の中でもこれまでのキャリアとはまったく違う部署へ異動となる。あるいは、現在勤務する会社が買収した会社や海外の現地法人に出向く。こういういわばアウエーでリーダーを任されたときは、行ったほうがいい。とりあえず食ってみるのです。失敗するかもしれませんが、得るものは大きいはずです。

 上手くいかなかったとしても、なんとかなるものです。今、大企業でも出戻り制度が増えています。私が20代の頃に比べると、転職者を受け入れる社会の抵抗感は確実に弱くなっています。

 江戸時代のサラリーマンである武士ならば、主君から与えられた使命に失敗すると、すぐに切腹をせざるを得なかったのかもしれない。我々は死ぬことはない。少なくとも、私はこのように思って迷った時はえいっと決めてきました。今後もそうありたい、と思っています。

 腹をくくると、いろいろなことができるものです。迷った時には、腹をくくっちゃったほうがいいですよ。応援しています」

 東大卒でコンサルタント出身であるから、プロの経営者として歩むことができているのではないように思えるのではないだろうか。実は、プロの経営者として生き残るのは相当に難しいはず。それを成し遂げるのは、学齢やキャリア以上の価値を持っているからなのだと思う。

 5回シリーズの記事をご覧になっていただいた読者諸氏はこの一連の記事から、何を感じただろう。

■上田谷真一(うえだたに・しんいち)
1970年生まれ。1992年、東京大学経済学部を卒業後、同年からブーズ・アレン・アンド・ハミルトン(現PwCコンサルティングStrategy&)にて経営コンサルティングに従事。1995年に、経営コンサルタントの大前研一氏が率いる大前・アンド・アソシエーツの設立に参画し、企業の新規事業開発などに関わる。2003年から、黒田電機にて海外事業担当役員。2006年にディズニーストア社長、2009年よりクリスピー・クリーム・ドーナツ・ジャパン社長、2012年にバーニーズジャパン の社長。2017年にTSIホールディングスの社外取締役に招へいされ、2018年に社長に就任。 2021年社長を退任。現在は、株式会社三浦屋の取締役会長。

■「三浦屋」(みうらや)
安心・安全で高級、高品質の品ぞろえで知られるスーパーマーケット。2024年に創業100周年を迎える。杉並区松庵や吉祥寺(武蔵野市)や国立市、小金井市、新宿区飯田橋などに7店舗を展開。国内外の旬な生鮮食品から、話題のプライベートブランドまで、上質で健康的な食生活品を常時1万種類以上提供する。各店舗では地域の人たちのニーズを満たす品をそろえるなど、きめ細かなサービスを提供する地域密着志向でもある。