演技は反省と勉強の日々

――ただ実際の映画での演技は反省点もあったと聞きました。

「最初、いわゆる現象にアプローチしてしまったんですよね。現象ではなく、本質を見抜いて理解して、そこを追求しなければならない。私はシゲル自身にならなければいけないのに」

――つまり?

「シゲルを説明するのには、障がい者という言葉がついています。でも同じ障がいのある方の動きや表情をまねるのでは違う。本質がないから表層だけの演技になってしまう。そうではなくて、なぜ鼻を触るのか、恥ずかしいからなのか、コミュニケーションを取れないからなのか。そちらを深堀りしていく必要がある。そこにある時、気づいたんです」

――何がきっかけになったのでしょう。

「1回、自暴自棄になったんです。障がい者の役の演じ方について、監督と繰り返しディスカッションしているうちに、なんだか分からなくなってしまったんです。
 そこでシゲルはなぜ今こういう発言をしているんだろうと、シゲルに集中することにしました。だから最終的には私はシゲルを障がい者としては演じていないんです」

――アキラお兄ちゃんもシゲルは別に障がい者じゃないと言っていました。シゲルはシゲルで、六郎も六郎。

「六郎は劇中でバカだとかアホだとかよく言われるんですけど、初めて読んだとき、私はバカだとかアホだとか思わなかったので、自分に合っていたんだと思います。キャラクターシートというのも、そこをただ鵜呑みにしてしまうと危険だなと思います。それは結果でしかないので」

――そういったシートだと、「軽い障害がある」とか、「知的障害の気がある」といったことが書かれていたりするということでしょうか。

「そうですね。なぜそうなったかを、私たちは考える必要があるなと。それを『ブギウギ』と『さよなら ほやマン』で学びました。たとえば“ピュア”だとか。結果的にそう出てきているものが、文字として載っているので、それを見て鵜呑みにしてしまうとそこに引っ張られる。といっても、まだ素人に毛が生えた人間の言葉ですけど(苦笑)。ひとつひとつ勉強になっています」

――ちなみにディカプリオさんの名前が出ましたが、日本の方で、影響を受けた方を教えてください。

志村けんさんと藤山寛美さんです」

――藤山寛美さん!? 21歳ですよね、どこでご覧になるんですか?

「DVDとかですね。勉強になります。志村けんさんに関しては芸人さんなので役者ではないのかもしれませんけど、間の取り方がすごいですよね。圧巻です」

――では今後挑戦したいこととして喜劇、コメディは。

「もちろん興味あります。コメディ系でもいわゆる表情で笑わせたり動きで笑わせたりではなく、構造で笑いを取っていくコメディに出たいです。シチュエーションが面白いから笑えるもの。本人たちは真剣なんだけれど、周りから見ると笑えるという。悲劇でもあり喜劇でもあるといった、そういう作品に出たいです。でもキラキラ系もラブストーリーもやりたいです」

 前途洋々。目の前にいる黒崎さんは、シゲルとも六郎とも全く違う。これから、どんな役だろうと、ひとつひとつ真摯にその人物と向き合い、人生の断片をこちらに伝えていってくれるに違いない。

黒崎煌代(くろさき・こうだい)
2002年4月19日生まれ、兵庫県出身。2022年にレプロエンタテインメントの30周年企画「主役オーディション」で5000人の応募者の中から合格して芸能界する。翌年、連続テレビ小説『ブギウギ』にて俳優デビューを果たす。趣里演じる福来スズ子の弟・花田六郎を演じて一躍、高い評価と人気を得る。同年11月に公開された映画デビュー作『さよなら ほやマン』では主人公アキラ(MCアフロ)の弟シゲルを演じ、第78回毎日映画コンクール、スポニチグランプリ新人賞にノミネートされた。
ヘアメイク:親友江
スタイリスト:能城匠 

衣装:EYCK(エイク) [問] EYCK SHOP  info@eyck-tokyo.jp