「どの落語家もみんな面白かった」

 いったい“芸”とは何だろうって考えて、そのまま東京で友達の家に泊まらせてもらいながら、さまざまな芸を見に行きました。

 そのときに見たひとつが、落語だったんです。場所は池袋演芸場でした。なんの予備知識もなかったのですが、そこでは、老若男女のお客さんがひとりの落語家の噺に注目して笑っていて。どの落語家もみんな面白いんですよ。当時の私が知っている落語家はいませんでしたが、太っている人が多かったので、「この人たち、食べていくことができているんだな」って思いました(笑)。

 注目も集められるし、食べてもいけるし、これなら自分もやってみたいと思って、九州での音楽の仕事を整理して上京、そこから半年間は師匠探しをしました。誰に教わるかで人生が変わりますからね。いろいろな人の高座を見て、入門を決めたのが、三遊亭円丈だったんです。

 こちらも日付まで覚えています。

 2011年1月23日の日曜日に、お江戸日本橋亭で師匠の出待ちをして、弟子入りを志願しました。

 円丈は、古い方には「ハエハエカカカ、キンチョール」のCMで、また落語好きの方には新作落語で知られていると思いますが、それが弟子入りの決め手となったわけではありません。とにかく一番面白い落語家だと思ったことが大きかったです。

 師匠からは、すぐに名刺をもらって、翌日に電話をしたら、家に呼んでもらうことになって、トントン拍子で話が進んでいきました。後で聞いたら、あまりにも話がスムーズに進んだのは、私が弟子入り志願をする6時間前に1人の兄弟子が破門になっていまして、ちょうど掃除してくれる弟子が欲しかったみたいです(笑)。

三遊亭わん丈(さんゆうてい わんじょう)
1982年12月1日、滋賀県生まれ。2011年に、三遊亭円丈に入門。翌年に「わん丈」の名で前座に。16年に二つ目昇進し、以降、さまざまな賞を受賞。21年、円丈の逝去にともない、天どん門下に。24年の3月下席より、真打披露興行。

■令和六年春 真打昇進披露興行
林家つる子 三遊亭わん丈
11人抜きのつる子、15人抜きのわん丈の、抜擢真打による昇進披露興行。
●鈴本演芸場(3月21~30日 夜席)
●新宿末廣亭(4月1~10日 夜席)
●浅草演芸ホール(4月11~20日 昼席)
●池袋演芸場(4月21~30日 昼席)
●紀尾井小ホール(5月21~25日 昼席)
問い合わせ:一般社団法人 落語協会 
TEL 03-3833-8565