煌びやかなスタジオだけど、“別世界ではない”

――YouTubeチャンネルの振り返り動画を観ると、二人とも現場にいながら客観視していたようですが。

楢原 「普段のライブと同じような感覚でいられたんです」

――豪華なセットに怯んでしまうこともなく。

出井 「確かに煌びやかなスタジオだけど、“別世界ではないから”と自分に言い聞かせて。まぁ、裏を観たら木の板ですから(笑)」

楢原 「それに、セットを観ながらネタをやるわけじゃなくて、観覧で入った200人も満たないお客さんの前でネタをやるので、いつものライブと変わらないなと。長年売れなかったことがプラスになったと思います」

出井 「いろんな劇場に出てきたので、新しい場所で漫才することに慣れていたんです」

楢原 「しかも、まわりにいる芸人はみんな友だちという。(取材場所に貼ってあるポスターを見て)M -1グランプリ2018に出ていたら、先輩ばかりで話せる芸人はいなかったですよ」

――1本目の「引っ越し」では、『北京原人』という若い子は知らないワードを入れましたが。

出井 「僕のゴリ押しだったと思います。「つまらないもの」と言って本当につまらないものを出してくる。実写版『ドラゴンボール』とか実写版『デビルマン』もあるけど、『北京原人』が一番つまらないし、知らなくても言葉のリズムで笑ってくれるかなと思ったんです」

楢原 「『シベリア超特急』も候補にあったけどね」

出井 「そうそう」

楢原 「僕自身はこれといって言いたいことがないんです。ウケればいい。ただ、言いたいことがある人の言葉のほうが、魂が乗って面白く聞こえるはず。出井の言いたいことがあれば尊重してます」

――手数にこだわってますか?

楢原 「言いたいことはないんですけど、いっぱいふざけたい人ではあるので、手数は重視しているというか、隙があればボケたい。ネタ見せで、講師の方に“そこはボケなくていいよ”と指摘されることもあったけど、変なことを言い続けたいんです」

――08年と09年のM -1はNONSTYLEとパンクブーブーに代表されるように手数の時代でしたよね。

出井 「10年はスリムクラブさんがボケ数を絞ることで目立って。15年の再開後は、伏線回収ネタが多かったり」

楢原 「伏線回収ネタは苦手というか、伏線のところでボケちゃうから回収できなくなっちゃう。伏線を張ってる暇があればボケたいんです」

取材・文/大貫真之介

左:楢原真樹(ならはら まさき)。1986年11月17日生まれ、大阪府出身。
右:出井隼之介(でい じゅんのすけ)。1987年3月2日生まれ、神奈川県出身。
NSC大阪校28期生の楢原と29期生の出井が2011年9月に「ヒートアップ」を結成し、後に「パープーズ」に改名。2014年に「ヤーレンズ」へと2度目の改名。M-1グランプリ2023で準優勝。