「いままで経験したことがない感情でした」

 そしてベンチに座ろうと不自然なコースを歩くよう促され、クロちゃんは観念したようにゆっくりを歩き、闇夜の神社で、落とし穴の底に吸い込まれていく。小林さんは脱兎のごとく逃走――。クロちゃんはゆっくりと穴から這い出ると、待たせていたタクシーに乗り込んだ。車内には徳永英明の『レイニーブルー』が流れていた。

「仕掛け人だったとしても、その気持ちを伝えないといけないと思ったんです。あっちも本当に好きになってくれるかもしれないと思ったし。あのときは、すげえ……本当に……なんでしょうね……いままで経験したことがない感情でした。

 僕、レイちゃまへの告白を意識して、長袖長ズボンを着ていたんです。僕って長袖長ズボンが大嫌いで、1年中、半袖短パンなんですけど、この日のために着たんですよ。それが、落とし穴から出てきたら泥だらけになって……。もう二度と長袖長ズボンを着るもんか、と思いましたね」

クロちゃん 撮影/有坂政晴

 あまりの切なさに、いつもは爆笑している視聴者もさすがに気の毒に思ったはずだ。しかしタクシーが自宅に到着し、部屋に戻ってきたクロちゃんは、スマホを眺めでどこかに電話をかける。相手は別の女の子だった。平然とした声でデートに誘う様子が、隠しカメラでバッチリ撮られたのだ。

ーー「クロちゃんがかわいそう」となりかねなかった放送でしたが、ちゃんと「クロちゃんはやっぱり最低だ」と笑えるようにオチていました。それは、次の女の子に電話をかけるシーンがあったからこそ。あのワンシーンはすごいです。

「えっ最低? そんなことないよ! ちがうちがう! 自分が傷つかない方法だから!」

 しばらくは『レイニーブルー』を聴いただけで号泣してしまうほど、トラウマになったというクロちゃんだったが、ご褒美企画として2022年11月9日から同12月21日まで、「MONSTER LOVE」シリーズが放送。見事、クロちゃんを本気で好きだという女性・リチと結ばれるという衝撃の結末を迎え、話題となった。

ーートラウマを経てのリチさんとの出会いはかがでしたか?

「いやぁ、どうでしょうねえ。番組のなかでいろいろ泣かしちゃいましたけど、それでも好きだと言ってくれるから、本当に大切にしないといけないな、と思いましたね。思ったのは、何通応募が来たのかわからないけど、大人数のなかからリチが来てくれて、最終的に僕にたどり着いたんだから、リチにとっては宝くじが当たったみたいなものですよね。僕は宝くじとしてしっかりしないといけないなと思いました」

ーー宝くじ……。リチさんとお付き合いして、ご自身の中で「THE CHANGE」はありましたか?

「変わったことですか? なんだろう?(と、首をひねる)」

マネージャーK氏「(冷静な声で)いや、なにも変わっていないでしょう」

「言っちゃダメ! 変わってるから!」

マネージャーK氏「よくなにかを絞り出そうとしていましたね」

「いやいや! あのね、僕がずっと“変えない”と言っているから、あまり言わなくなっちゃったんですよ。言いたいけど言えない、みたいになっちゃって」

 リチさんとの結婚について問うと、「考えているけど、はたして本当に僕に見合うのかどうか、審査していますよ、いま」と“宝くじ”としての姿勢を徹底的に変えないクロちゃん。トラウマにつぶされない強さの根源を、見た気がした。

クロちゃん
1976年12月10日生まれ、広島県出身。2001年、団長安田、HIROとともにお笑いトリオ『安田大サーカス』を結成。コワモテフェイスとギャップのあるハイトーンボイスが特徴で、近年は『水曜日のダウンタウン』(TBS系)で大ブレイクし、「愛すべきクズキャラ」として人気を集めている。アイドル好きとしても知られ、アイドルグループ『豆柴の大群』アドバイザーとしての顔や、アイドルフェスプロデューサーとしても才能を発揮している。