役者生活60年目にして、初めて映画に主演する平泉成さん、80歳。日本を代表する名バイプレイヤーとして、昭和・平成・令和で常に第一線で活躍し続ける平泉さんには、いくつものTHE CHANGEがあった。【第1回/全5回】
「ちょっと待ってね。今日聞かれそうなことの答え、忘れないように書いてきたから」
柔らかそうな生地のジャケットの懐から、ミニサイズのキャンパスノートを取り出すのは、6月2日に80歳を迎えた平泉成さん。流れるような黒い文字を、目を細め眼鏡越しに確認する。
「今回、映画に初主演しましたが、どんな心持ちで演じましたか?」と質問すると、開いたノートを読むそぶりなく「主人公・鮫島の考え方とか、言葉少ないキャラクターだったりとか、自分と重なるところがいくつもあって、とてもやりやすかったです。きっと僕へあてがきしてくれたんでしょう。秋山監督、シナリオライターの中井さんには感謝しかないですね」とゆっくり話しはじめた。
平泉さんといえば、“日本を代表するバイプレイヤー”という揺るぎない冠で語られてきた名優だ。1964年、大映フレッシュフェイスのひとりとしてデビューすると、2024年の現在にいたるまでの60年間、さまざまな役を演じてきた。そんな平泉さんの元に、“主演”のオファーが舞い込んだのは、80歳目前のこと。