トータルテンボスは『THE SECOND』のコンセプトに合っていない!?

「ネタはテレビに出るための手段」「売れてないやつがやるもの」だった時代から、今や隔世の感がある。「『M-1』を観て芸人を志した」「テレビよりライブで食べていきたい」と公言する若手芸人は数多い。

大村「今の若手はすごいですよね。ネタの生産力が高くて、本当に好きだからやれるんだな、って思います。俺らの頃はネタ合わせしてるのも恥ずかしいような空気があって、影でコソコソやってましたから」

藤田「“ネタなんて全然作ってないよ”って顔してた。それだけネタが好きでやってる若手のヤツらから、“尊敬してます”みたいなことをたまに言われるんですよ。“いや、そんな存在じゃねぇよ”って思う。ネタ作るのなんて嫌で嫌で仕方がなかったし、未だにやらないで済むならそれに越したことはないって思ってるぐらいで。だからそんなこと言われると申し訳なくなりますね」

 そうは言いつつも、2006年から始めた全国漫才ツアーはコロナ禍で一時中断しつつも年1回必ず開催するライフワークになっている。2023年に新設された、結成16年目以上の芸人を対象とする『THE SECOND 〜漫才トーナメント〜』にも2年連続でエントリー(共に予選敗退)。かつて賞レース強者として鳴らしたコンビの参戦は話題を呼んだ。『M-1』に翻弄された15年間を終えて「やっと賞レースから解放されたと思ったのに」と冗談交じりにこぼす参加者もいるが、二人は「もういい」とはならなかったのだろうか。

藤田「うちら、フジテレビの『THE MANZAI』で決勝に行けなかったんですよね。それで悔しい思いをしたんで、今度こそちゃんと地に足つけて出ようと思って参加しました。出たところでマイナスがないんですよ。我々が華々しかった時代なんてもう十数年も前のことで、知ってる人もあんまりいないから。それに今、予選敗退しても面白いじゃないですか(笑)」

大村「ちょっと楽しんでる節はありますね。もちろん出るからには受かることを目標にしてますけど、昔ほどそれがすべてだという気持ちもない。“落ちた=面白くない”ってことじゃないとわかってるから出られるところはあります」

藤田「楽しいですよ、ドキドキして。そもそもうちら、『THE SECOND』のコンセプトに合ってないっちゃ合ってないですからね。むしろ周りのほうが“お前らはもういいだろ”“まだ出るの?”って感じでしょ。落ちたら“ざまぁ見ろ、がめつい奴らめ”って思われて面白いでしょうね」

大村「賞レースがある限り、参加したいですね。そこに触れていたい。出ないっていう選択肢は今後もないかもしれないです」

 劇場の寄席出番、年に1度の全国ツアー、コンビでのYouTubeチャンネル、地元・静岡でのレギュラー番組……と、50代が目前となった今、肩肘張らず楽しそうにやりたいことをやっているトータルテンボスの姿は眩しく見える。これこそが賞レースを戦い続けた先に拓ける未来の、一種の理想形かもしれない。

文=斎藤岬

トータルテンボス
藤田憲右(ふじた・けんすけ)1975年12月30日生まれ。静岡県出身。
大村朋宏(おおむら・ともひろ)1975年4月3日生まれ。静岡県出身。
小学校の同級生同士で1997年に結成。NSC東京3期生。『M-1グランプリ』2004年、2006年、2007年ファイナリスト。『爆笑オンエアバトル』第10〜12代チャンピオン。現在のレギュラー番組は『くさデカ』(テレビ静岡)ほか。
YouTubeチャンネル「SUSHI☆BOYS」https://www.youtube.com/@sushiboys9529