ふと気づいたら、木村多江はテレビや映画に欠かせない俳優として存在していた。映画では作品ごとに違った顔を見せ、テレビでは、ドラマはもちろんのこと、NHK教養番組ではナレーションやナビゲーターを務め、『LIFE〜人生に捧げるコント〜』などではコメディエンヌとしての才能を発揮。最新作のドラマ『昔はおれと同い年だった田中さんとの友情』では、小学6年生の息子を持つ、大阪の“お母ちゃん”を演じる彼女には、何度もCHANGEの瞬間が訪れたという──。【第4回/全5回】

木村多江 撮影/有坂政晴

 最新作のドラマ『昔はおれと同い年だった田中さんとの友情』(NHK)では、小学6年生の息子を持つ母親役を演じる木村多江。親子役として同じ時間を過ごしただけに、クランクアップは寂しくて仕方がなかったという。

「本当にかわいくて、これからの成長をずっと見守っていきたいと思っています。彼に限らず、自分の子ども役を演じてくれた子たちのことは、ずっと気になっちゃいますね」

 木村がそんな気持ちを抱くようになったのは、自身が母親になったことが大きかったという。妊娠が分かったのは、転機となった映画『ぐるりのこと。』(2008年)の撮影を終え、主演のNHKの連続ドラマ『上海タイフーン』の撮影に入ってすぐの‘07年のこと。

「その少し前に病気をして、子どもを望むことは難しいと言われていたので、とても嬉しかったです。けれど、ほかに決まっていたお仕事をお断りしたり、妊娠を継続させるために入院したりということになってしまい、撮影を止めてしまったことが、本当に申し訳なくて、つらかったです」

 出産まで8か月の入院。その間、木村は関係者におわびの手紙を書き続けたという。

「ベッドの上で思っていたのは“絶対にこの命を誕生させる”ということと“中断させてしまったドラマを撮り終える”ということの2つだけでした。この子を誕生させ、作品を完成させたら、その先はしばらく子育てとしっかり向き合いたい、と思っていました」