書く喜び、読んでもらう喜びに目覚めて

 こうして書いた小説が、朝井さんを作家の道へと導いていくことに。以前から日本史が好きだった朝井さんが、最初に選んだテーマは江戸時代の園芸。初めての合評会では、原稿用紙50~60枚の短編小説を提出したという。

「自分の小説を評してもらうのですから、もうドキドキなわけです。でも、始まる前に教室で待っていたら、ある生徒さんがどうやら私の小説を読んでいないらしいとわかって、気分はどん底。
 それでも、いざ合評が始まったら他のみんなはちゃんと読んでくれていたし、優しく褒めてくれる方も、もっともな指摘をしてくれる方もいて、本当にうれしくて。『私、書いてもええんかな』と思えたんです」

 当時の感動がよみがえり、「今思い出しても泣けてきちゃう」と目尻を拭いながら笑い泣きする朝井さん。書く喜び、読んでもらう喜びを味わい、ますます小説を書くことにのめりこんでいった。

「最初の提出作品を書いたものの、まだ書き切れていないことがあると素人なりにわかったんですね。それで『続きを書きます』なんて宣言して、なんとか最後らしきところまで辿り着きました。でも、本業が忙しくなって、それっきり学校に行けなくなってしまったんです。
 それでも、小説から離れられへんのですよ。気になって、いつまでも手を入れてしまう。そのうち『これはもう、何かの賞に応募して手放さないといけないな』と思うようになりました」

 その時、たまたま締切が近かったのが松本清張賞。そこで原稿を紐で綴じ、いざ応募……となった時に、朝井さんの夫から「待った」がかかる。

「『松本清張賞ってプロの作家も応募できる賞やで。無理や、あかん』って夫が言うんです。でも、とにかくどこかに応募しないと私としても次に行かれへん。そこで調べてみたら、次に締切が近いのが講談社の小説現代長編新人賞でした(笑)。
 小説現代長編新人賞で私は奨励賞をいただきました。あのデビューの電話をもらった時も『THE CHANGE』でしたね。「あなたの作品が奨励賞に選ばれました」と言われた瞬間、今でも忘れません。ほんまに、膝から崩れ落ちました。
 奨励賞は正賞の新人賞ではなく、次点の佳作です。賞金はありませんが、一冊の本として刊行してくれるという特典がありました。書店に並ぶんです。今でも、あの賞に「拾っていただいた」と思っています。

(つづく)

朝井まかて(あさい・まかて)
1959年、大阪府生まれ。甲南女子大学文学部卒。2008年、小説現代長編新人賞奨励賞を受賞してデビュー。13年、『恋歌』で本屋が選ぶ時代小説大賞、14年、同作で直木賞受賞。その後も『阿蘭陀西鶴』で織田作之助賞、『すかたん』で大阪ほんま本大賞、『眩』で中山義秀文学賞、『福袋』で舟橋聖一文学賞、『雲上雲下』で中央公論文芸賞、『悪玉伝』で司馬遼太郎賞、大阪の芸術文化に貢献した個人に贈られる大阪文化賞、『グッドバイ』で親鸞賞、『類』で芸術選奨文部科学大臣賞と柴田錬三郎賞を受賞。近著に、『ボタニカ』『朝星夜星』『秘密の花園』など。

(作品紹介)
なにげに文士劇2024 旗揚げ公演『放課後』
公演日程:2024年11月16日(土)開場 15:30 開演 16:00
会場:サンケイホールブリーゼ

大阪市北区梅田2-4-9 ブリーゼタワー7F
https://www.sankeihallbreeze.com
チケット価格:全席指定 一般席8,000円(税込) U25※5,000円(税込)
※観劇時25歳以下対象(チケットぴあのみ取り扱い・座席はお選びいただけません)
当日座席指定引換券・要身分証証提示
チケット発売日:2024年9月1日(日)正午~
チケットの購入:公式HP https://nanigeni-bunshigeki.com/

原作:東野圭吾『放課後』(講談社文庫)
脚本・演出:村角太洋
出演:黒川博行、朝井まかて、東山彰良、澤田瞳子、一穂ミチ、木下昌輝、黒川雅子、小林龍之、蝉谷めぐ実、高樹のぶ子、玉岡かおる、百々典孝、湊かなえ、矢野隆
主催・製作:なにげに文士劇2024実行委員会(委員長:黒川博行 委員:朝井まかて・東山彰良・澤田瞳子)

公式HP:https://nanigeni-bunshigeki.com/
クラウドファンディングに挑戦中(8月1日〜9月13日)
https://readyfor.jp/projects/nanigeni-bunshigeki2024