「僕が目指しているのはシンガー・ソングライターなんだけどな……」

 そして、僕の出演シーンが放送に乗る前に、大川先生から「大阪の新歌舞伎座の舞台で、あなたにピッタリの役があるから出ないか」と言われたんです。このとき恐れ多くて一度は丁重にお断りをさせていただいたんですが、先生は「それはいけない。あなたはこの先、時代劇を背負って立つ人間なんだから」と言われたんです。

 内心は「僕が目指しているのはシンガー・ソングライターなんだけどな……」と思いつつも、大川先生のお言葉に従って出演することを決めました。

 舞台では、大川先生から銭形平次の撮影時以上にさまざまなことを教えていただきました。そうした中、一度だけ叱られたことがありました。

 本番を翌日に控えた通し稽古のとき。僕は自分の出番がきているのに気づかず、楽屋でスタッフと談笑していたんです。慌てて楽屋から舞台に向かったのですが、通し稽古が終わった後、「あれはダメだ。今日の件はきちんと反省して、明日からやりなさい」猛烈に恥じました。「二度とこんなミスをしちゃいけない」。その日の夜、僕は台本を改めて徹底的に読み込みました。

「明日の本番は大川先生に絶対に迷惑をかけちゃいけない」、そう思っていざ翌日の本番に臨んだら、幕が下りた後、大川先生に、「今日は最高だったよ。本当にありがとう」と最大級の賛辞をいただいたんです。それから3年間、大川先生には時代劇のイロハについて徹底的に教わりました。

 僕がミュージシャン志望だったのをご存じだったのか、こんなこともありました。

 魚屋善太が主役の回があったのですが、「あなたが曲を作りなさい。ギターで歌ったものを挿入歌で使うから」と言ってくださったんです。『風に舞い上がれ』という曲を作り、僕がギターで、フルート奏者だった姉も演奏に加わって、アフレコルームで収録したものを、ドラマの挿入歌として流してくださったんです。本当に嬉しかったですね。

京本政樹(きょうもと まさき)
1959年1月21日、大阪府高槻市出身。79年、NHK土曜ドラマ『男たちの旅路』シリーズ「車輪の一歩」でデビュー。その後、NHK大河『草燃える』『銭形平次』(フジテレビ系)などに出演し、85年『必殺仕事人V』(テレビ朝日系)の組紐屋の竜役で大ブレイク。ミュージシャンとしても活動するかたわら、舞台、映画、バラエティ番組など幅広く活躍中。

『シーボルト父子伝~蒼い目のサムライ~受け継ぐ者達』
8月8日(木)~11日(日)
博品館劇場(東京・銀座8丁目)
総監修:木村ひさし
演出&脚本&主演:鳳惠弥
特別出演:京本政樹
江戸時代に訪日し、蘭学教育を行った医師・博物学者のフィリップ・フランツ・フォン・シーボルト(京本)と、その息子の外交官・ハインリッヒ(鳳)の物語。2022年に逝去した渡辺裕之が演じた役を、盟友の京本政樹が演じることも話題に。
https://twitter.com/siebold_fushi