「映画よりも、音楽のほうの扉が先でした」
そして若い時分からもっとも影響されてきたのが「音楽」だ。「映画よりも、音楽のほうの扉が先でした」と振り返る。
「もともと音楽好きのあんちゃんでした。ただのファンではありますけど、中学生時代なんて、音楽に出会っていなかったらどうなっていたか。特に中学時代の僕のいろいろな軌道修正をしてくれた存在だと思っています」
ザ・クラッシュやセックスピストルズなどのパンク・バンドが、若者たちを熱狂させた当時、永瀬さんも自身でバンドを結成していた。
「僕はヴォーカル担当でした。本当は歌じゃなくてギターをやりたかったんですけどね。下手過ぎてクビになっちゃったんです。ベーシストのシド・ヴィシャス(セックスピストルズ)みたいにかっこよく弾きたくて、ストラップを長くして見た目から入ったんですけど、全然弦も押さえられなくて、下手過ぎて『やめろ』と言われちゃって(苦笑)。でもずっと好きで。その後もずっと、音楽に救ってもらってきました。音楽って、ワンフレーズを聴いただけでその時に戻れますよね」
当時の自分がよぎったのだろうか、一瞬、少年の顔を覗かせる。
「僕はずっと音楽ファンです」
中学のころから音楽が大好きで、その後は一生の仕事となる映画と出会った永瀬さんから、「好き」に一途な性格が伝わって来る。
(つづく)
永瀬正敏(ながせ・まさとし)
1966年、7月15日生まれ。宮崎県出身。1983年に相米慎二監督の映画『ションベン・ライダー』でデビュー。ジム・ジャームッシュ監督『ミステリー・トレイン』(89)で主演をつとめて以降、海外映画へも多数出演し、海外でも知られる俳優。また写真家としても活躍する。台湾映画『KANO~1931海の向こうの甲子園~』で、金馬奨で中華圏以外の俳優で初めて主演男優賞にノミネート。アジア人俳優として、『あん』『パターソン』『光』にてカンヌ国際映画祭に初めて3年連続で公式選出された。最新作は安部公房の小説を映画化した『箱男』。『五条霊戦記//GOJOE』(00)、『蜜のあわれ』(16)、『パンク侍、斬られて候』(18)などでも組んできた石井岳龍監督との、27年越しの悲願を実現させた。待機作に『徒花-ADABANA-』がある。
●作品情報
映画『箱男』
監督・脚本:石井岳龍
原作:安部公房
脚本:いながききよたか
出演:永瀬正敏、浅野忠信、白本彩奈/佐藤浩市
製作幹事・配給:ハピネットファントム・スタジオ
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