「何でも器用にできる子じゃなく、僕は“ギターの人”になりたかった」

 近年は、芸能事務所に所属しないフリーのタレントさんやミュージシャンも増えましたが、当時はかなり珍しくて。今思い返すと、フリーになったこともTHE CHANGEかもしれない。毎年行う確定申告の職業欄に、アイドルやタレント、芸能人という選択肢はないんですが、音楽家はあるんですよ。そこに、“音楽家って書きたいな”と思ったことを、今も覚えています。

 実は、フリーになってすぐ、ドラマやクイズ番組、ミュージカル、司会というお仕事をやってみないかというお話をいろんな方からいただきました。ありがたいですよね。でもね、全部断ったんです。だって、ギターでやっていくと決めたから。何でも器用にできる子じゃなく、僕は“ギターの人”になりたかったんです。ただ、残念なことに音楽の仕事の依頼は全然来ませんでした。だから、自分で獲りに行くしかなかったんです」

野村義男 撮影/冨田望

 穏やかな口調でユーモアを交えながら語るが、ギターへの情熱は決して生半可なものではなかった。音楽の仕事を得るため、なりふり構わず頑張ったようだ。

「僕はよく、用もないのに音楽スタジオのビクタースタジオ(東京都渋谷区)に行きました。当時、1階には食堂があり、そこで水1杯で粘るんです。面識のあるディレクターさんとかが通り過ぎたりすると、何気ないふりをして、“お久しぶりです。僕もちょうど打ち合わせで来てたんですよ”って話かけるんです。