僕はエンジンを積んでいない船

 番組は『ごきげんよう』にリニューアルされ、2016年まで続きました。32年近く続いた長寿番組が終わったことで感傷的になるかと思ったら、そういう感情は沸かなかった。最初は生放送でしたが、途中からは週1ペースの収録だったこともあり、生活も変わりませんでした。

小堺一機 撮影/イシワタフミアキ

 今は朝6時起床、夜9時就寝みたいな生活ですが、これは入院してからの習慣。48歳のとき、「原発性不明頸部リンパ節転移」という病気になり、最初は死についても考えました。でも、入院後は気が楽になりました。今さらあれこれ悩んだってしょうがない。お医者さんにすべて任せようと。考えてみれば『いただきます』のときと同じ心境です。

 司会をした頃から年に1回並行してやっていたのが、『小堺クンのおすましでSHOW』という公演。歌や踊り、タップ、コント、トークが繰り広げられるステージなんですが、舞台のクオリティを上げるために毎年のようにニューヨークに勉強しに行ったのは、僕の財産です。

 これからも、映画にもテレビにも出るし、舞台もやります。今年『プリンス・オブ・マーメイド』というミュージカルでは、ベニクラゲの役でした。こういう予期せぬ仕事を振られるのが嬉しいですね。

 この世界に入って約半世紀になります。例えるなら、僕はエンジンを積んでいない船かなと思います。帆だけは張っていて、いろんな人が送ってくれる風を受けて前に進んでいく感じです。

 風次第で思いがけない方向に進むこともありましたが、おかげで自分では気づかなかった長所を引き出してもらえました。

 風向き次第で、自分がどこへ行くのか自分でも分かりません。

小堺一機(こさかい・かずき) 
1956年1月3日。千葉県生まれ。専修大学在学中に『ぎんざNOW!』の「素人コメディアン道場」17代目チャンピオンとなり、芸能界入り。『欽ちゃんのどこまでやるの!?』で関根勤と組んだ「クロ子とグレ子」でブレイク。以降、テレビ、映画、ラジオ、舞台などジャンルを超えて活躍する。」