より多くの人に知ってもらいたい

――たしかに『優駿 ORACION』やドラマ『北の国から』シリーズ、『南極大陸』と、北海道撮影の作品に多く出演されてきています。それでもアイヌ民族についてはあまり耳に入る機会はなかったんですね。

「僕が北海道によく行っていたのは今から30年以上前ですが(『北の国から』)、当時はあちらもアイヌ民族について喋りたがりませんでしたし、こちらも聞いてはいけない雰囲気がありました。たとえば行者ニンニクのことを、あちらではアイヌネギと言うんですけど、とにかく“アイヌ”とつく言葉を発しちゃいけない。“え、なぜ?”というくらい、口にしてはいけない空気があるというか。どこに行ってもアイヌ民族の話は出てこないんです」

――そうなんですね。

「ようやく北海道旧土人保護法が廃止されたり(1997)、日本の先住民族だときちんと認められたりしたことで、こうやってアイヌ民族について、映画としても語られる時代がきたのだなと。アイヌ民族の生活感やスピリチュアル的な要素であるとか、厳しく豊かな大地で生き抜いてきた知恵、楽器、そういったものを含め、僕のような、知らなかった人を含めて知ってもらったほうがいいだろうと思ったんです」

――正直、“アイヌ”という呼称を耳にはしても、その歴史はあまり知りません。アイヌ民族について語られる映画が、ここ最近、急に増えてきました。知るきっかけにはなるかもしれません。

「日本の先住民族として生き方もきちっと評価されていいと思うし、この映画を見ていても、彼らのことをとてもいいなと感じます。だから、より多くの人に知ってもらいたいと思うんです」

 “シサム”とは、和人とともに、隣人との意味も持つ。本作は、アイヌと和人が共生してきたという北海道白糠町で多くを撮影。本編終了後、改めてタイトルの意味を考えさせられる。

 ちなみに主演は、最近独特な存在感で立て続けに映画に出演し、もはや佐藤浩市の息子、三國連太郎の孫との紹介が必要なくなってきた寛一郎が務めている。

「芝居にものすごく真摯に向き合っているし、目線もいいし、独特な華が備わっていますよね。人間的な魅力が滲み出ている感じがするので、この先、いろんな役を見るのも楽しみだな、どう成長していくのかなという期待も込めて、芝居をしていてとても楽しかったです」

 終盤、緒形さんは、アイヌ民族が蜂起したと聞いて討伐にきた先輩藩士として、アイヌ民族と交流し、彼らと人と人として向き合った寛一郎さん演じる主人公と対峙する。

(つづく)

緒形直人(おがた・なおと)
1967年9月22日生まれ、神奈川県出身。映画『優駿 ORACION』でデビューし、日本アカデミー賞新人俳優賞をはじめ、多数の賞に輝く。96年には映画『わが心の銀河鉄道 宮沢賢治物語』にて日本アカデミー賞優秀主演男優賞を受賞。近年の主な出演作に映画『護られなかった者たちへ』『川っぺりムコリエッタ』、ドラマ『六本木クラス』、松本清張ドラマスペシャル第一夜『顔』、2024年4月クールの日曜劇場『アンチヒーロー』での好演が話題を呼んだ。最新作はアイヌ民族と和人との歴史を描いた映画『シサム』、連続テレビ小説『おむすび』への出演も発表されている。

●作品情報
映画『シサム』
監督:中尾浩之
脚本:尾崎将也
出演:寛一郎、三浦貴大和田正人坂東龍汰、要潤、富田靖子、緒形直人
配給:NAKACHIKA PICTURES
https://sisam-movie.jp/