「でもまあ、あとあとわかってしまうんですけどね」

ーー本名ではなく、芸名で活動していた時期がありますが、そのころですか?

「そうですね」

ーーお父さまは俳優の渡辺謙さんですが、お父さまの存在を隠すために芸名を使用していたのでしょうか。

「当時の事務所としても、そういう意図はあったと思います。名前からはわからないようにしたほうがいいんじゃないか、と。よくも悪くも、“渡辺謙の息子”として認識されてしまうと、ちゃんと見てもらえなくなることがあるんじゃないか、という懸念があったので、それなら違う名前でやるのもおもしろいじゃないか、ということでした」

ーー自らご希望を?

「いや、うちの父にもそういう話があって、決まりました」

 使えるものは使う、という二世俳優も多くいるかもしれないが、渡辺さんとその周囲の大人たちはそうしなかった。

「でもまあ、あとあとわかってしまうんですけどね。そういう意味では、比較的オーディションの途中まではいけるんですが、なかなか“そこから先”へは行けないから、親の存在は関係ないんだな、というのはしょっちゅう思いましたね」

 オーディションでは冷静な言葉を投げかけられた。
「それ、台本を読んでいるだけだよね?」
「何をもってして、そのセリフを言っているの?」
「謙さんだったら、こんなふうには言わないよね」

「名前を変えたところで知っている人は知っていたし、それでも言う人もいたし、僕自身も”あれじゃあ受からないよな”と納得しながらやっていました」