オーディション会場に行っても、被っていた帽子を取らずに挨拶

 さて、上京してからの僕は、劇団に入ったりして俳優をずっと続けてきましたが、やっぱり転機となったのはNHK朝ドラ『ひらり』に出させてもらったことですかね。

 ホントは、やる気が全然なかったんです。でも、事務所から「オーディション行って来い」って言われてね。当時は舞台の仕事を中心にやっていたから「あ〜、面倒臭いな〜」って思ってたんです(笑)。で、オーディション会場に行っても、被っていた帽子を取らずに挨拶して。会場では10人くらい受けたんだけど、みんな真剣なんです。「この中で、ヒロインの相手役以外だったらやりたくない人は手を挙げて」って聞かれて、僕以外の9人は皆、手を挙げるんですよ(笑)。僕は「はぁ〜」って思わず笑っちゃって。

 そんなふうに、プレッシャーも何もなくてやったら最終選考まで残っちゃって。そこで「僕は朝の顔じゃないと思うんですけど……」って言ったら「朝の顔じゃない、夜の顔のあなたを出したいんだよね」って返されて、面白い人たちだなって思ったんです。そこで初めて帽子を脱いで、真面目に向き合ったんです。

 そこでテレビのノウハウを学ばせてもらったので有難かったですね。『ひらり』に出てからは、生活は激変。日本中に僕の名前と顔が知れ渡ったような印象でした。

(つづく)

渡辺いっけい(わたなべ・いっけい)
1962年10月27日、愛知県生まれ。83年、大阪芸大在学中に『劇団☆新感線』に参加。大学卒業後は上京し、85年に状況劇場に入団。その後、92年、NHK連続テレビ小説『ひらり』で注目を浴び、全国区となる。以降は多くのドラマ、映画、舞台で主演およびバイプレーヤーとして活躍中。

映画『追想ジャーニー リエナクト』
スランプに陥っている脚本家・横田雄二(渡辺)の元に「退行睡眠 失った記憶を取り戻し現代人のストレスをなくします!」と書かれたメールが届く。そこで横田は退行睡眠を使い30年前の自分(松田凌)に会い、売れる脚本家へと導こうとするが……。
配給:S・D・P
10月18日(金)より、東京・渋谷HUMAXシネマ、池袋シネマ・ロサほか全国公開
(c) 映画『追想ジャーニー リエナクト』製作委員
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