“自転車操業”を繰り返し現在のスタイルへ

 ちょうど『THE MANZAI』(フジテレビ)の予選が始まる時期だった。心情的に後ろ盾を得たことで自信を持ち、このスタイルで予選に挑む。結果、前年は1回戦敗退だったところが2回戦を突破し、「認定漫才師」に選出された。長くツッコむ漫才が、当初『オンバト+』でウケなかった理由を井口はこう分析する。

「一般の人からしたら“ツッコミが長いって、なんなんだ”って感じなんですよ。『レッドカーペット』でウケたのも、今田(耕司)さんや勝俣(州和)さんが笑ってたからだと思います。お笑いに相当詳しい人しか笑わない。当時は今と違ってメタな感じのネタってなかったんで、わかりづらかったんだと思います。だから『オンバト+』でやったときはダメだったんでしょうね」

 この年の秋には『キングオブコント』(TBS)準決勝にも進出。気鋭の若手として注目され始める。「“俺は最初からいいと思ってたんだよ”って言い出すやつがだんだん出てきた(笑)」と、お笑いファンの手のひら返しぶりを井口は鼻で笑う。

 2013年に入ると、『オンバト+』に呼ばれる機会が飛躍的に増加。#87(2013年1月5日放送回)、#89(2013年1月19日放送回/オフエア)、#92(2013年2月16日放送回)、#93(2013年3月2日放送回/オフエア)、#95(2013年4月6日放送回)と、4カ月で5回も挑戦している。

「なんでかわかんないですけど、めっちゃ呼ばれましたね。よく見てくださいよ、#93がオフエアになってるけど、受かってたら2回連続で出ることになってたんですよ!? 『オンバト』って本当は連続で出ちゃダメなんですよ。初期にアンタッチャブルがバグ的に2週連続で出たのが唯一だったはずで。立て続けに呼ばれるからネタがなくなって、『オンバト+』で新ネタをおろしてました。今考えたらマジでわけわかんないですよ。『オンバト』にたくさん出る芸人になれたことはうれしかったですけど」

 ただ、そうして“自転車操業”を繰り返したことも、現在のスタイルに至るまでの道筋と無関係ではない。

「僕らは若手だったからか、そもそもネタがめちゃくちゃだったからか、『オンバト+』のスタッフさんが優しくて。ほかの人にはめっちゃ厳しかったんですけど、収録前に“ちょっとネタ変えていいですか”って聞いても“いいよいいよ、好きにやって”って言ってもらってました。
 番組が終わりに近づく頃には、もう『オンバト』らしからぬことばっかりやってましたね。エレキテル連合がどうとかジグザグジギーがどうとか、ネタの中で人の名前を出しまくったり。“やっちゃダメ”とされていそうなことを言う面白さみたいなものは、このあたりからありました。その結果、『M-1』でも“佐久間さ〜ん”って言ってるわけですよね(笑)」

(つづく)

文=斎藤岬

井口浩之(いぐち・ひろゆき)
1983年5月6日生まれ、岡山県津山市出身。中学・高校の同級生だった河本太と2008年にウエストランドを結成。『M‐1グラプリ 2022』優勝。現在のレギュラー番組に『耳の穴かっぽじって聞け!』(テレビ朝日)。WEBメディア「お笑いナタリー」にて「今月のお笑い」連載中。

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