相当キツイ言葉も言われました
――観客の話が出ました。ドキュメンタリー『オートレーサー森且行 約束のオーバル 劇場版』にも登場しますが、観客の声の中には、ヤジも多かったと。自分を認めさせるまでは辛い期間でしたか?
「やっぱり気になりましたね。すごく言われるので。相当キツイ言葉も言われましたよ。公営競技の世界ですから、それはもうキツイです(笑)。でもそんなことでくじけてちゃダメだなと。ヤジをくれた人たちに認めてもらおうという気持ちで、とにかく速くなることだけ、一番いいランクに行くことだけを考えて走っていました」
――そうしたヤジが飛んでくることは、オートレーサーに転身すると決めた時点で想定していましたか?
「いや、想定してなかったです。ヤジなんてものはない環境にいましたからね。それに、オートレースにしても、僕が観に行ったときには、飛んでなかったんですよ。やっぱり芸能界から入って、生ぬるい気持ちで来てるんじゃないかというもともとのオートレースファンの捉え方があったんだと思います。だから転んだりすると、“芸能界に戻れ”とか“歌って踊ってろ”とか、そんな感覚だったんだと思います。同期が落車しても別にヤジはないんですよ。僕だから飛ばしてくる。でもそれが今の糧になってるかもしれない。確実にメンタルが強くなりましたから」
――そうした声も、変わっていったのではないですか?
「そうですね。新人王を取ったときくらいからかな。同期の中での戦いがあって、25期のチャンピオンになったときに、徐々に徐々にそうしたヤジもなくなっていって、GⅡを取って、GⅠを取って、ちょっとはオールドファンのおじさまたちも認めてきてくれてるのかなって。ただやっぱりその時点ではSGは取ってないので、ヤジる人たちは多分そこだろうなと感じてました。だから日本一になるまでは、そういうヤジもちゃんと聞いて、それに負けないように頑張ろうと」
――ヤジもちゃんと聞くんですね。
「聞こえちゃうんですもん。転んでヘルメットを脱ぐと。だから“見返してやろう”と。絶対に速くなってやるぞって」
2020年11月3日、森さんは日本選手権で優勝。己の速さでヤジをねじ伏せた。
(つづく)
森且行(もり・かつゆき)
1974年2月19日、東京都出身。川口オートレース所属。96年、トップアイドルグループ「SMAP」からオートレーサーへ転身し、 97年にデビュー戦で勝利。翌年には新人王に輝く。7年目にGⅡ、13年目にGⅠを制覇し、同年、所属する川口オートでランキング1位となった。 2020年11月にはSG日本選手権で優勝し、日本一を達成するが、その82日後に落車により、命が危ぶまれるほどの大けがを負う。5度の大手術と壮絶なリハビリを耐え抜き、2023年4月、奇跡の復帰を果たした。3年間を追ったドキュメンタリー『オートレーサー森且行 ー約束のオーバル ー劇場版』が11月29日(金)より公開。
●作品情報
映画『オートレーサー森且行 ー約束のオーバル ー劇場版』
監督・編集:穂坂友紀
出演:森且行
ナレーション:萩原聖人
配給:KADOKAWA
製作:TBS
11月29日(金)より新宿ピカデリー、角川シネマ有楽町ほか全国ロードショー
公式サイト:autoracer-mori.com