「味覚がなくなってしまった」

 抗がん剤のペースは、最初は3週間で3回。一度退院を挟み、薬を変え5日間連続で打ちーーと、入退院を何度か繰り返した。4月にはがんであることと、闘病中であることを公表した。

「抗がん剤治療をはじめてすぐの2月中に抗がん剤を入れる管から菌が入ってしまい、高熱が出て、その熱を下げるために処方された抗生剤が私の体に合わなくて、血尿が出たり血液の数値がおかしくなって免疫力が低下して、体力がみるみる落ちていったんです」

 さらに7月には放射線治療を開始した。すると、「その影響かわからないけど」と前置きしたうえで、「味覚がなくなってしまった」と話す。

「副作用で口内炎もすごかったんですよ。口の中、上下左右、奥までびっしり真っ白、みたいな感じで喋れないし。いろいろなことが積み重なり、体もメンタルもだいぶ弱ってしまったんです」

 さらに輸血を必要とする事態にもなったが、「祖母が輸血が原因で亡くなった」ことで輸血を拒否していた。

「本っ当に輸血したくなかったんです。でも、一番大切な友達の結婚式を控えていて、スピーチもお願いされていました。友達は“無理しなくていいよ”と言ってくれていましたが、参加したいしスピーチしたいじゃないですか。それを担当医に話したら、“それならなおさら、絶対に輸血したほうがいい”と言われて渋々承諾しました。もう心身ともにボロボロでした」

 ボロボロだった。ーーこれまで、なるべく深刻にならない口調で話していた藤乃さんが当時のことを一言そう表現するだけで、その壮絶さがうかがえる。そんな中でも、常にファンのことが念頭にあったという。

「メンタルが崩れる前から、“仕事、どうしよう。これから先できるのかな”と事あるごとに考えていました。一番気になっていたのは2022年11月に作ったファンクラブのことです。なにもできないまま闘病に入ってしまって、ずっと入り続けてくれている人たちがいて、なにもしない状態で“引退します”なんてムリムリ! と思いました」