「その場しのぎで、万葉集の現代語訳を作ったんです」

―志が素晴らしいですね。1億円納税することは実現しそうでしょうか。『愛するよりも愛されたい』が9万部も売れていたら、早くも達成しそうです。

「その目標は、最初は友達に笑われました。でも、万葉社が最初に出した『令和万葉集』と『令和古事記』はどちらも数千部発行して、完売しているんです。もちろん、この2冊だけでは到底目標には到達しませんでしたが。それで、3冊目は当初予定していたフランス絵画の本を書こうとしたんですけど、10万字の本なので、2年ぐらいかかってしまい、出版社なのにその間一切本を出さないという恥ずかしいことになってしまった。

 なので、その場しのぎで、万葉集の現代語訳を作ったんです。“こんなん誰が買うねん”と思っていたので、初版は500部にしました。もちろん、取次なんて契約してくれないので、結婚式の引き出物に入れていたほか、Amazonには20冊だけ入れていました」

―その場しのぎで作った本が、バカ売れしたわけですね(笑)。

「ほんとたまたまです(笑)。噂が噂を呼んで、“この本が面白い”と誰かが言い出し、Amazon在庫20冊がすぐに売り切れました。そこからは、入れても入れてもなくなって、500冊ぐらい一気に売り切れました。追加で、1000冊刷っても、すぐに売り切れ状態でした。

 それを見て、紀伊国屋書店さんもうちでも取り扱いたいと言ってくれて、注文依頼のメールには「全部」と書いてあった。“在庫は7000冊なんです”といったら、“7000冊全部もらいます”と言って、トラックで持って行きました(笑)」

 出版不況が叫ばれる昨今だが、苦境からの驚きの大転身。このままいくと1億円納税はあっという間だろう。次にはなにが待っているのか、楽しみに待つほかないだろう。

■プロフィール
ささき・りょう
昭和59年生。京都精華大学芸術学部卒業。大学時代は油絵を専攻。京都現代美術館の学芸員を経て、現在は瀬戸内の文化芸術の研究を中心に活動。自身で立ち上げた出版社・万葉社から令和4年10月に出版した『愛するよりも愛されたい』がベストセラーに。恋歌を現代奈良弁に超訳し、1300年前の情感を引き立てている同書はSNS風の表現と流行語を駆使し、令和時代にフィットする1冊に。7月21日には第二弾『太子の少年』を刊行予定。