芸人なんてものは、世の中を批判的に見たりするもの
その頃から交流のある渡辺えりさんとは、来年の1月に渡辺さんの古稀記念2作連続公演『鯨よ! 私の手に乗れ』『りぼん』にも出演させていただきます。今は非常に仲が良くて、とてもリスペクトしていますが、当時は渡辺えりさんがなかなか役と折合いがつかず苦労しました。2か月後のエイプリルフールに勘三郎さんが電話でえりさんに「ラサールが自殺した」ってウソついて、腰を抜かすほど驚いたそうです(笑)。
勘三郎さんは渡辺さんをとても信頼していましたね。渡辺さんが勘三郎さんの舞台を観に行って、納得がいかないと、一幕と二幕の間に楽屋に乗り込んでいって、「何この芝居! つまらないじゃないの」とストレートに言うそうなんです(笑)。勘三郎さんは「本当のことを言ってくれる」と喜んでいましたね。
正直に生きるのは大変ですよね。昨今、僕のSNSなどでの政治的な発言が、ネットニュースなどで騒がれてしまうことがあります。ただお笑い芸人は昔から、いろいろと発言してきたものです。コロムビア・トップ・ライトさんは政治批判の漫才をやっていましたし、立川談志師匠は落語の枕で政治の話はよくしていました。トップさんも談志師匠も後に選挙に出て議員になっちゃって権力側に行きましたけど(笑)。
そもそも芸人なんてものは、世の中を批判的に見たりするものだって、僕は思っていたんです。それに僕としては中道の立場で発言をしているつもりなのですが、世の中が右のほうに傾いていって、自然に僕が左にいるようになってしまっているように感じています。
とはいえ、SNSのリプ欄は見ないことにしています。僕はスルースキルがないので落ち込むし、反論したくなるから。リプ欄を見ないので、炎上しているのか、バズっているのか、よく分かっていません(笑)。
芸能人の中では事務所などに気を遣って、政治的な発言をしないようにしている方もいると思います。ただ、僕の事務所は大きくはないので、他のタレントさんのようにCMがなくなってしまうなんて心配はあまりありません。だから、ある程度は自由があるという事情もあります。
現在の活動は演劇が主戦場となっています。僕の奥さんはまだ若いのですが、先日、「あなた、もっと年を取って、舞台に立つ体力がなくなってきたらどうするの?」と詰められて、テレビの旅番組を見ながら、「こういうのも出なさいよ」と言われました。「そんな簡単じゃないんだよ」とは言い返しましたが、まだしばらくは演劇でやっていこうと思います(笑)。
ラサール石井(らさーるいしい)
1955年生まれ 大阪府出身。渡辺正行、小宮孝泰とお笑いトリオ「コント赤信号」を結成。『オレたちひょうきん族』などで活躍する。2015年『ヘッズ・アップ!』で第23回読売演劇大賞の優秀演出家賞を受賞。近年は舞台のほか、ラジオ、映画、新聞のコラムなどで活躍中。
『鯨よ!私の手に乗れ』『りぼん』
渡辺えり 古稀記念2作連続公演
80年代から日本の演劇界を牽引してきた女優・演出家・劇作家の渡辺えり。彼女の古稀(数え70歳)を記念し、昭和の時代から現在まで生きてきた女性たちの群像劇が、2本連続で上演される。
日程・会場:東京=2025年1月8日~19日 本多劇場(東京都世田谷区)、山形=(『りぼん』のみ)2025年1月22日 山形市民会館
問い合わせ:オフィス300