人生を振り返ると、“情”の大切さを痛感

 それからはトントン拍子に一緒にレコードを作ろうって話になって、以前僕が“千寿二郎”ってペンネームで書いた『千住ブルース』の詩の世界観が、梶原の生き様そのままだったので、これをやろう! ということになったんです。もう70歳を超えたから、体を大事に好きな歌をのんびり歌っていこう……なんて、のんびりした気持ちだったんですけど、梶原と再会して、エネルギーがグワッと湧いてきましたよ。

 こうやって、これまでの人生を振り返ると、“情”の大切さを痛感しますね。500円払ってくれたお客さん、気に入ってくれたホステスさん、レコードをかけてくれたレコード屋の店員さん……やっぱり、人って“情”で生きていると思うんです。僕自身も好きなことをやって、これまでこれたのも“情”のお陰ですよ。

 僕が育った千住は、江戸時代の俳諧師・松尾芭蕉の紀行文「奥の細道」に出てくるスタート地点となった街なんです。その芭蕉の言葉で「平生すなわち辞世なり」というのがあります。平生って、日頃って意味なんだそうで、死を前にした芭蕉が弟子に、日頃から、これが最後だと思って作っているから、いまさら辞世の句なんて必要ないと弟子たちに言った言葉なんだそうです。

 この言葉通り、歌や人生も全部がそうだなって思いますね。カッコいい言い方をさせてもらうと、どんなステージも、そのステージが自分にとっての最後だと思って、すべてを絶好調なレベルにまで準備して、お客さんに「良いステージだったなぁ」って思ってもらえるようにしたいです。

 今日のこのインタビューも、自分にとって最後のものになっても良いように、大事な話は全部話したいなって思っていますよ。だって、志半ばで他界した仲間もいっぱい見てきたから。「今日が最後」って思って、明日も生きますよ。

渥美二郎(あつみ・じろう)
1952年8月15日、東京都生まれ。16歳から演歌師としてのプロの道に入る。1978年発表の『夢追い酒』が大ヒット。昭和54年度日本レコード大賞ロングセラー賞をはじめ、多くの賞を受賞。同年第30回NHK紅白歌合戦に出場。95年から阪神・淡路大震災救済コンサート「人の会」を主宰し、毎年開催している。

渥美二郎・梶原あきら『千住ブルース』は好評発売中
同じ釜の飯を食った仲間と、50年ぶりの再会! 
2003年にリリースした『おそい春』のカップリングとして収録された楽曲『千住ブルース』を、演歌師時代の盟友・梶原あきらとデュエットという形でセルフカバー。
発売元:日本コロムビア株式会社