映画字幕翻訳者の戸田奈津子さん。昭和・平成・令和を「字幕」と「通訳」の“二刀流”で映画界を牽引してきた。しかし86歳となった昨年、「通訳」引退を発表。ちょうど大ヒット映画『トップガン マーヴェリック』日本公開の直前、主演のトム・クルーズ来日のタイミングだったこともあり、大きなニュースとなった。とはいえ、“本業”の「字幕翻訳」はまだまだ現役、今夏公開予定の『ミッション:インポッシブル/デッドレコニング』の字幕も手掛けている。
「後悔はありません。映画が好きだから」という某転職サイトのCMでの言葉通り、生涯を大好きな映画に捧げた女性、その人生が変わった「THE CHANGE」とはーー。
映画と旅行に共通する魅力は未知の世界に触れること
「コロナが猛威を奮った3年間も、普段の生活にはあまり影響がありませんでした。海外旅行ができなかったことだけが変わったことかしら」
海外旅行が大好きだという戸田さん、その魅力について聞いてみると、
「旅のスタイルは変わっても“知らない世界を見る、体験する”というスリルは変わりませんね。映画の魅力のひとつは未知の世界に触れることになりますが、それをリアルに体験するのが旅。私の人生は要約すると、この2つの魅力に支配されてきたようです」
プライベートの旅は、どのように計画しているのだろうか?
「“良さそうなところ”という情報が耳に入ると、“じゃあ、行ってみようか”という感じです。それでも、30数年間で、いろいろな国々を旅しました。とくにヨーロッパは観光地や大都市ばかりではなく、小さな町や村を巡りめぐって……。その行程を地図に線で書き込んでいくと、地図を塗りつぶせるくらいに広範囲になります」
コロナ禍でなかなか海外渡航が叶わぬ中、北海道や九州、京都など元気に地方に足を運んでいるそうで、最近はご多忙の様子だ。
「最近、急に忙しくなっていますね。北海道では戦闘機に乗ってきました。以前から自衛隊に知り合いがいて、『トップガン マーヴェリック』と同じ戦闘機を見せてくれるというので……。もちろん、飛んではいないですよ。コックピットに座らせていただいただけですけど、本当に貴重な体験でした」
どうやって自衛隊の方とお知り合いになったのかお聞きすると、意外な答えが返ってきた。
「5、6年前にタップダンスを習ったことがあって、その先生のお父様が自衛隊の偉い方だったんです。私と年齢も近いからと紹介して下さってからのお付き合いです。『マーヴェリック』の字幕をやる時に、パイロットの方を紹介していただきました。自衛隊のトップガン=ブルーインパルスの方々とご飯も食べたこともありますよ。普通の居酒屋や焼肉店で。みなさんとても好青年で、楽しかったです」
字幕づくりに必要な専門分野のアドバイザーとして知り合ったのかと思っていたが、違ったようだ。7月3日に誕生日を迎え、87歳になった戸田奈津子さん。タップダンスを習い始めたのは60歳を過ぎてからということだから、本当に元気だ。
「仕事のために下心があってお付き合いを始めたことはありません。たまたま日常生活の中で知り合って、今度のマーヴェリックのように、じゃあ、専門家を紹介していただこうかなとなっただけです。映画は裁判ものが多いから、以前から知り合いの弁護士さんに“もし助けていただけるなら、お願いします”という感じですね」