“親の援助はあります!”と嘘をついて劇団青俳に合格
面接官から「両親から金銭的な援助はしてもらえるのか」と問われ、「勘当同然なので、自分でアルバイトをしながら演技の勉強をしたい」と答えたところ、「うちの劇団には、それで成功できた人はいない。両親を説得してきなさい」と言い渡されてしまったという。
「押し問答の末“あんな劇団、こっちから願い下げだ!”と腹を立てながら安アパートに帰ったんですが、だんだん“どうしてバカ正直に答えてしまったんだろう……”と反省して、次に受けた劇団青俳の面接では“親の援助はあります!”と嘘をついて合格できました(笑)」
劇団青俳は、蜷川幸雄、石橋蓮司、宮本信子などが所属していて、三田村はここの養成所に入所することになったが、なにしろ親の援助は嘘なので、稽古とアルバイトで寝る時間もないほどの日々を送ることになる。
「アルバイトはとび職で、今回出演する『おちか奮闘記』が上演される三越劇場のあたりでは、けっこう足場を組んだりしましたね。朝まで現場をやって、稽古が始まるまで稽古場で寝てたら先輩から叱られたり」
そんな日々を送る三田村に、映画の主役の話が舞い込んだ。
第75回芥川賞を受賞した『限りなく透明に近いブルー』。脚本・監督は、作者の村上龍である。
「龍さんを含む何人かと会って、短いセリフを読んだんです。原作を読んだことがなかったので帰りに買おうとしたら1400円くらいするんですね。とび職の日給が1440円だったので、ぼくにとっては高価です。でも読まなくちゃと思って買って帰ったんですが……、言葉を選ばずに言うと“なんだこれ!? 買って損した!”。5ページくらい読んだところでゴミ箱に捨てちゃったんです(笑)」
ところが、村上龍は主人公のリュウは三田村邦彦しかいないと、劇団を通して何度も連絡してきた。そこで、1度会うことにしたのだが……。
「龍さんに“本は買ったけど、読んでないです。ゴミ箱に捨てたから”と言うと、“脚本は小説とはちょっと違うから、読んでみてくれる?”とおっしゃるので読んだのですが……どこが違うのかさっぱりわからない。というか、内容がぼくの生き方にことごとく反しているので、こんなのはできないと改めて思いました」
『限りなく透明に近いブルー』は、横田米空軍基地がある東京・福生市で、クスリやセックス、暴力に明け暮れる若者を描いた作品。
「次に龍さんに会ったとき、“このリュウという男は、なにもかもを人のせいにして、社会的に悪であることばかりやっている。反省も希望もない。ぼくには、こんな役はできません”とハッキリ言いました」
しかし結果的に三田村邦彦はこの映画の主役を務め、俳優として次に繋がる爪痕を残すことになる————。
(つづく)
三田村邦彦(みたむら くにひこ)
1953年10月22日生まれ、新潟県新発田市出身。1979年に映画『限りなく透明に近いブルー』でデビュー。同年『必殺仕事人』(テレビ朝日)の〝飾り職人の秀〟で注目され、『必殺』シリーズのドラマ、映画に多数出演。1980年に『必殺仕事人』の挿入歌『いま走れ、いま生きる』で歌手デビューし、シングル・アルバムを多数リリース。俳優としての主な出演作は『必殺』シリーズのほか、ドラマ『太陽にほえろ!』(1982−1983 日本テレビ)、映画『太陽の蓋』(2016)、舞台『かたき同志』(2021)『アンタッチャブル・ビューティー』(2022)など。2009年より旅番組『おとな旅あるき旅』(テレビ大阪)のMCを務めている。
【作品情報】
舞台『おちか奮闘記』
2025年1月2日(木)〜26日(日)
三越劇場
作:川口松太郎(『浪花女』より)
補綴・演出:成瀬芳一
出演:丘みどり、三田村邦彦、河合雪之丞、賀集利樹、松本慎也、瀬戸摩純 ほかhttps://mitsukoshi.mistore.jp/bunka/product/7050900000000000000002982412.html?rid=7b90e5db143c44a3a02acbf947dfdfa0
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