映画『伽耶子のために』で鮮烈なデビューを果たした俳優の南果歩。以降は、映画だけに留まらず、ドラマや舞台にも活躍の場を広げ、コメディからシリアスなものまで幅広い役柄を演じてきた。2024年は俳優としてのキャリアも40年を迎えた。近年では、海外作品にも積極的に出演し、俳優以外の活動でもバンド(ボーカル担当)を組んだり朗読劇に取り組んだり……とまさに人生を謳歌している。そんな南さんにも人生の転機となる出来事「THE CHANGE」があった————。【第1回/全4回】

南果歩 撮影/有坂政晴 ヘアメイク/黒田啓蔵(K-Three) スタイリスト/坂本久仁子

 この日のインタビューは「よろしくお願いします」という挨拶から始まったが、溌溂とした南さんの声からは瑞々しさが感じられる。とても還暦とは思えない若々しさで淡いイエローのニットが良く似合う。最新出演作、映画『君の忘れ方』は交通事故で恋人・美紀(西野七瀬)を失ってしまった青年・昴(坂東龍汰)が美紀の死と向き合い、受け入れ再生を果たしていくヒューマンドラマだ。本作で南さんが演じたのは昴の母・洋子。夫が理不尽にも命を落としてしまったことがきっかけで洋子の中でも時間は止まったまま、昴にも言えない”秘密”を抱えている──という設定だ。

「このシナリオを読んだ時に、描き方がとても素晴らしく感じたんです。全体的に静かな、セリフの少ない映画ではあるんですが、人のとても深い部分を描こうとしているところに惹かれて出演を決めました。人は誰もが当たり前のように日常を生きていて、自分の心の奥底まで他人に伝えたりはしないですし、仕事は仕事で責任を持ってやっていても、やっぱり心の奥底のその人にしか届かないところには様々な思いを持っていると思うんです。私自身、自分の役を普通のお母さんではなく、洋子の人生、彼女が生きてきた苦しい時間も含めて表現できると思った点がこの役を演じてみたいと思うポイントでもありました」