知性がにじむ物静かな役から、狂気をはらんだ人物まで、自在に行き来する俳優・佐野史郎さん。日本のアングラ演劇の最重要人物・唐十郎氏が主宰する「状況劇場」で活躍したのち、映画やテレビへ活動の場を広げ、ドラマ『ずっとあなたが好きだった』(TBS・1992年)で演じたエキセントリックなマザコン“冬彦さん”はセンセーションを巻き起した。
 テレビや映画に欠かせない名優には、ミュージシャンという別の顔がある。佐野さん自身が人生最大の“THE CHANGE”と語る、2020年に発覚した多発性骨髄腫の闘病時も、病室で片時もギターを手放さなかったという。表現者・佐野史郎にとって演技とは、音楽とはなにかをじっくり語っていただいた。【第2回/全5回】

佐野史郎 撮影/有坂政晴

 J-POPシーンの4人のレジェンドよるバンド・SKYEと共演し、作品『ALBUM』を創り上げた佐野史郎さん。そのきっかけのひとつとして、10代から“追っかけ”をしていたという松任谷由実さんの存在が見え隠れする。

 映画『夢みるように眠りたい』(1986年、林海象監督)で初主演を果たして以降、俳優として着実にキャリアを重ねていた佐野さん。1992年のドラマ『ずっとあなたが好きだった』(TBS系)で演じた“冬彦さん”で大ブレイクし、俳優としての“THE CHANGE”を迎えた。

 翌93年、同じ座組で制作された『誰にも言えない』(TBS系)で演じた麻利夫の、鬼気迫る演技も話題沸騰。このドラマに主題歌『真夏の夜の夢』を提供したのが松任谷由実さんであり、彼女にとっての初ミリオンヒットという記念碑的な作品ともなった。浅からぬ、えにしを感じさせるエピソードだ。

「僕が19歳のころ、先ほど話した『ジァン・ジァン』へ(当時は、荒井由実として活動していた)ユーミンさんのライブに何度も足を運びました。僕もあの舞台には幾度も立たせてもらいましたから、テレビドラマという異なる舞台でもご一緒できたことは、なんというか……、感慨深いものがありました。
 ドラマで僕が演じた役がかなりキワドく、気持ち悪い存在だと受け止められていたので、当時は僕が街中を歩いていると周りから人が逃げていきましたよ(笑)。そうした反応を見て、ドラマの盛り上がりを肌で感じましたね」