30代に突入するタイミングで訪れた転機

 自分を見失いかけた20代を経て、30歳を目前にしたときだった。いとうさんにTHE CHANGEが訪れる。

「ちょうど29から30になるタイミングでした。兄の奥さんの妊娠がわかり、散歩に行きにくくなるからとゴールデンレトリーバーを預かることになったんです」

 名前はアトム。彼の存在はいとうさんの価値観を一変させた。

「アトムを見ていたら……存在感が素晴らしいんです。高価な洋服を着るわけでもなく、人に好かれたいような素振りをするわけでもなく、自分らしく生きているだけですごくステキだな、と。生きるってこういうなんだ、ということをアトムに教えられた気がしました」

 アトムのように自分らしく生きようーーそう思い至ったいとうさんは、髪の毛を切り、ラフな服装に変え、化粧を止め、人に媚びること、すべてやめた。芸名も漢字から現在のひらがな「いとうまい子」に変えた。

「気持ちがすごく変わりました。仕事がほしくてしがみつくようにやっていたけど、もし全部やめた私になにも仕事が来なくなったとしても、それが私の人生なんだからもう芸能界を辞めればいいかな、くらい肩の荷を下ろした感覚でした」

 それから30年が経った。いとうさんはいまでも「そのときのことは、いまだに忘れられない」と噛みしめるように話すのだった。

いとうまい子 撮影/三浦龍司

いとう・まいこ
1964年8月18日生まれ、愛知県出身。83年に「1億人のクラスメイト」とのキャッチコピーで歌手デビュー。翌年、ヒロインを演じたドラマ『不良少女とよばれて』(TBS系)が高視聴率を記録した。ドラマや映画だけでなくバラエティでも活躍。芸能界でいち早くインターネットを活用し、2010年には早稲田大学に入学、現在は早稲田大学大学院に研究生として所属し、抗老化学を研究中。25年度より、情報経営イノベーション専門職大学の正教授に就任予定。また2021年に内閣府の教育未来創造会議の構成員に選任され、同年には株式会社タスキ社外取締役、さらに22年に株式会社リソー教育社外取締役に就任するなどマルチに活動している。

『野生の島のロズ』
監督・脚本:クリス・サンダース
製作:ジェフ・ハーマン
音楽:クリス・バワーズ
原作:「野生のロボット」福音館書店刊(ピーター・ブラウン作・絵、前沢明枝訳)
配給:東宝東和、ギャガ
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日本語吹替えキャスト:綾瀬はるか(ロズ)、柄本佑(チャッカリ)、鈴木福(キラリ)、いとうまい子(ピンクシッポ)
千葉繁(クビナガ)、種﨑敦美(ヴォントラ)、山本高広(パドラー)、滝知史(サンダーボルト)、
田中美央(ソーン)、濱﨑司(赤ちゃんキラリ)