いい意味で、役者としての危機感を持っている

 ただし、俳優としてのスタンスは俳優として走り出した当初から変わっていないと断言した。

「たとえば“俳優・瀧内公美として”あなたがチェンジした作品は?と聞かれても、この作品に出会えた瞬間に私は変わりました!みたいなものって、正直、ないんです。一瞬思ったとしても、それって思い込みなんじゃないかなと。変化を感じることって基本的にはお客さんが判断するものだと思いますし、私自身は振り返って考えてみても、根幹的なものが変わったとは思いません」

 その“変わらない”中身を、瀧内さんは「常に焦燥感がある。いい意味で、役者としての危機感を持っている。自分自身を焚きつけている」ことだと口にした。

 ちなみに、“役者が変わったかどうかはお客さんが判断するもの”という瀧内さんにとって、周りから見て変わったかもしれないと思う点を訊ねてみた。

「私は小さな映画、単館系と呼ばれる作品からキャリアをスタートしてきました。いわゆるシネフィル(映画通)と呼ばれるみなさんが、初期のころから自分の作品をたくさん観て、劇場に足を運んでくださっている。私が認識できる方々も幾人かいらっしゃいます。“また観に来てくれてるなぁ”“やっぱり来てくださってるな”と。
 舞台挨拶のときもそうですし、私は映画館によく足を運ぶので、そこで顔を合わせたりします。“周りから見て変わった”という点に関しては、評価されるようになったということ自体が、自分は変わっていなくても、周囲からの見方に変化があるのかもしれません。あ、でも私自身が変わったところといえば、応援してくださってきたファンの方々を裏切れないなという責任感のようなものは、年々増していっていると思います」

 昨年は大河ドラマ光る君へ』、今年は朝ドラ『あんぱん』と、誰もが見られる大型作品への露出が増える。高い評価を受けるようになった俳優になった瀧内さんだが、初期の作品から愛してくれている観客の“顔”を忘れていない。そんな瀧内さんだからこそ、しぐさや声、目線などを通じて、物語の中で生きるキャラクターひとりひとりの感触すら、画面を越えて感じさせてくれるのだろう。

瀧内公美(たきうち・くみ)
1989 年10月21日生まれ、富山県出身。 2012 年に映画デビューし、2014年、内田英治監督『グレイトフルデッド』で映画初主演。『火口のふたり』(2019)にて第41回ヨコハマ映画祭最優秀新人賞、第93回キネマ旬報ベスト・テン主演女優賞など、『由宇子の天秤』(2021)で第31回日本映画批評家大賞主演女優賞、第31回日本映画プロフェッショナル大賞主演女優賞ほか国内外で多くの賞に輝くなど、高い評価を得ている。ほか主な出演作に、映画『日本で一番悪い奴ら』『彼女の人生は間違いじゃない』『敵』、ドラマ『凪のお暇』『大豆田とわ子と三人の元夫』、『クジャクのダンス、誰が見た?』(放送中)、NHK大河ドラマ『光る君へ』など。主演最新映画『奇麗な、悪』で1時間超作品の長回しワンカット撮影による一人芝居に挑んだ。公開待機作に浅野忠信主演『レイブンズ』。

●作品情報『奇麗な、悪』
監督・脚本:奥山和由
プロデューサー:豊里泰宏
音楽:加藤万里奈
劇中絵画「真実」:後藤又兵衛
原作:中村文則
出演:瀧内公美
公式サイト: https://kireina-aku.com/