「才能を超えて全人格的に愛しちゃってる」
――不思議なセッションの感覚だったようですが、泰子、中也、小林の関係が、単純な“三角関係”ではくくれないからかもしれませんね。
根岸監督「特徴的なのは、中也と小林のふたりがお互いの才能をものすごく求め合っていること。たとえば小林のセリフでも“お前、天才だよ”という恥ずかしい言葉を、相手に向かって言えるくらい信じている。才能を超えて全人格的に愛しちゃってる。そのことに対する嫉妬やマイナスな気持ちが、泰子の中にはある。不思議な三角関係です。
小林からすると、泰子は自分が天才だと思っている中也が惚れてる女ということで、すごく興味がある。ただの三角関係じゃなくて、この3人で、なおかつこの時代にしかなかったものだと言えるし、映画的な感覚だとも思う」
――監督は、“大正時代の”彼らの青春をどう見ましたか?
根岸監督「大正に限らないんだけど、第二次世界大戦の前ぐらいまでの若者って、圧倒的に大人なんだよね。短い人生経験の中で急に大人になっちゃった人たちというのは、やっぱり今の若者とはまるっきり違うと思う。人間として完成されてはいないんだけど、大人として振舞わなきゃいけない使命を帯びているというか。本能的にそう思っている。
でも実際そんなにうまくいくわけないから、いろんなギクシャクが起きてしまう。いまはそれを色んな形でごまかしてしまう時代だと思うけど、大正時代の若者は、ギクシャクをごまかさなかったんじゃないかな。かつ中也と小林はとんでもない才能を持っていた。
自分自身のことを評価していて、だけど評価されてないことも分かっていて、もっと高みにいきたいと思っている。いろんなものを抱えている特殊な部分も、この映画にはある。言ってみれば泰子は、そこに投げ込まれた悲劇的な部分もあるよね」
岡田「実年齢を考えると、一番年長の小林秀雄ですら、当時まだ23歳なんですよね。今の大学生、大学院生くらい。中也にいたってはまだ10代で、泰子だって20か21歳くらい。今の時代だったら、女の“子”ですよね」