自分が芸人に向いているかどうかなんて、考えていませんでした

 そこからは劇場で週7日タダ働きして、舞台袖で先輩のネタを観てはメモって、終わったら相方の川田とTSUTAYAに行って“お笑い”“コメディ”の棚にあるDVDを片っ端から借りて「なんでこれが面白いんだろう」と分析する毎日。それをネタに反映して練習して、吉本の社員に見せては「おもんない」と言われ、「なんでだ!」って思いながらまた先輩のネタを観ていると「なるほど、最初にちゃんとフリがあるから後で出てくるボケがウケるんだ。俺たちはフリができてないんだ」ってわかってくる。そういうことを繰り返すうちに、ネタがウケるようになっていきました。

 社員から「新人トーナメントがあるから、出てみるか」と言われて出たら決勝まで行っちゃって、「本来はNSCを出ていないと所属できないんだけど、特例だよ」ということで吉本に入れたんです。

 今考えると本当に無鉄砲ですよね。でも、無鉄砲だった自分を褒めてあげたい。「売れたら最高だろうな」「有名になったら楽しいだろうな」って夢を追いかけるエネルギーが強すぎて、自分が芸人に向いているかどうかなんて、考えていませんでした。

「君は努力すれば絶対食っていけるよ」と誰かに言われたわけでもないのに、根拠のない自信が背中を押してくれてました。いってみれば“痛い奴”かもしれないけど、痛さってエネルギーだと思います。だからこそ努力が苦じゃなくなって、実力がついていく。もちろん、その過程ではいっぱいスベって恥ずかしい思いもします。だけどそこでまた学んで、引き出しが増えていく。

(つづく)

照屋年之(てるや・としゆき)
1972年生まれ、沖縄県出身。映画監督・芸人・俳優。ゴリの芸名で1995年にお笑いコンビ「ガレッジセール」を結成、2006年から映画監督のキャリアをスタート。初監督作品の短編映画『刑事ボギー』でショートショートフィルムフェスティバル〈話題賞〉を受賞。2018年に製作した映画『洗骨』はモスクワ国際映画祭、上海国際映画祭などの映画祭に出品され、日本映画監督協会新人賞を受賞。

映画『かなさんどー』
7年ぶりの帰郷。見つけたのは、今は亡き「母の日記」。記憶の糸をたぐり、今、止まっていた時計が再び動きはじめる――。沖縄県・伊江島を舞台にした、郷愁漂う映像美。監督独自の死生観と笑いを交えて描く、愛おしくて切ないヒューマンドラマ。
監督・脚本/照屋年之
出演/松田るか、堀内敬子、浅野忠信、他
2月21日(金)より全国公開中!!
配給:パルコ 
(c)「かなさんどー」製作委員会