小説家、藤岡陽子さんの信条は「努力はいつか必ず報われる」。昨年は『リラの花咲くけものみち』(光文社)で第45回吉川英治文学新人賞を受賞した。最新作『僕たちは我慢している』(COMPASS)を上梓した藤岡さんに、これまでの「THE CHANGE」を聞いた。【第2回/全3回】

藤岡陽子 撮影/有坂政晴

 タンザニアのダルエスサラーム大学に1年間留学し、スワヒリ語を学んだ藤岡さん。衛生環境は厳しく、マラリアに2回もかかったという。

「意識を失って倒れるという経験を生まれて初めてしました。熱が39度7分まで上がって、『あ、死ぬのかな。親不孝だな』と思ったのを覚えています。普段でもエイズやコレラで亡くなる人がいて、常に死が身近にありました。帰国したら、とにかく努力して、後悔せずに生きたいという気持ちになりました」

 27歳で帰国し、塾の講師や法律事務所事務員のバイトをしながら小説を書き始めた。田辺聖子さんら多くの作家を輩出したことで知られる大阪文学学校にも通い、作品ができると文学賞に応募した。

 29歳で結婚し、夫の転勤に伴い京都から東京へ。法律事務所を辞めざるをえなかった藤岡さんは、夫がまた転勤になっても仕事を続けられるよう、手に職を付けようと看護師資格の取得を決意する。

「タンザニアでは医療の知識がなくて、自分がもしも医師や看護師だったら困っている人を助けられたのではないかという後悔があったんです。だから、すぐ看護師が浮かびました」