『ウォーターボーイズ』『スウィングガールズ』のヒットメーカー、矢口史靖監督が、長澤まさみを主演に迎え、『ドールハウス』で初めて“ゾクゾクする”長編ミステリー映画を撮りあげた。数多くの有名監督を輩出してきた自主映画祭「ぴあフィルムフェスティバルのコンペティション」でグランプリに輝いたことをきっかけに劇場デビューした矢口監督のTHE CHANGEとは――。 

矢口史靖 撮影/有坂政晴

 

 第45回ポルト国際映画祭最優秀賞に輝くなど、公開前からすでに“怖い”と評判を集めている『ドールハウス』。これまでの矢口作品は、一般的にポップで明るいイメージが強いだけに意外な人も多いだろう。 

――初の長編ミステリーです。監督しようと思われたきっかけはなんだったのでしょうか。 

「最初は、友人がペットロスから立ち直ったという話を聞いたことでした。インコを亡くして、奥さんが落ち込んで落ち込んで大変だったと。でもそこから立ち直って今は大丈夫だという話を聞いて。それと、もともと好きだった山岸凉子さんの漫画『わたしの人形は良い人形』や、稲川淳二さんの怪談『生き人形』、ドールセラピーなどを組み合わせて考えているうちにだんだん話ができていきました」 

あえて架空の名前で企画を出した理由

――最初は、矢口監督の名前ではなく、架空の新人脚本家の名前で企画出しをされていたとか。 

「カタギリという知り合いの脚本だと嘘をついて。僕の名前でそのまま出すと、名前が邪魔をすると思ったんです」 

――いわゆる『スウィングガールズ』『ロボジー』『ダンスウィズミー』などを手掛けた“コメディ”の監督といったイメージでしょうか。 

「そうですね。それでお客さんをがっかりさせないようにというか、誰も傷つけないように書こうと思ったら、それこそ怖い話なんて書けなくなっちゃう。なりふり構わず恐ろしい話を作るんだという覚悟を、名前が邪魔してしまう気がしたんです。だから“カタギリという知人が書いたんですよ”と持ち込んで、できれば公開までそのままで行きたかったんですけど、途中でバレてしまって」 

――それはそうですよね。 

「現場で僕が演出してればバレちゃうし」 

――(笑)。 

「それで覚悟が決まりまして、もうどんなに嫌われても構わないと。フルスイングでやるしかないと思ってやりました」