北村が危機感を抱く、現代人に欠けている“立ち止まる時間”

──そうですね。

「それって、この20年くらいのことですよね。20年前は何をしていたんでしょう。きっと、そのころは会社のことや学校のことなどを、立ち止まって考えていたんじゃないでしょうか。そうして“立ち止まって考える時間”が、今ない気がするんです。
 それってすごく危険なんじゃないかなと、僕は不安になります。余計なお世話かもしれないけれど。でもスティーブ・ジョブズも、自分の子どもにはiPhoneを与えなかったといいますよね。もう時代もここまでになってしまったし、僕だってスマホは使っているわけですけど、これって世界中で起きている社会問題らしくて、不安を覚えます」

──詳しくは書けませんが、『逆火』には、野島が娘のスマホを取り上げる場面がありますね。

「あの場面はテレビドラマではできない描写ですよね。映画だからですし、必要な表現だと思いました」

──家族との問題を抱える野島ですが、クランクイン直前の現場では監督ともめます。彼の「誰に向けて作っているんですか」という問いかけに、共感するところはありましたか?

「彼の理想論というか、芸術論には大いに共鳴します。ただ僕もこの歳ですからね。そればかりを振りかざしているわけにはいかないことも分かります。だけど同時に、こういった人もいてほしい。これだけは譲れないという表現者としてのこだわりというか。極論ですけれど、役者の場合“生きるために芝居しているのか、芝居するために生きているのか”みたいな」

映画監督の大沢祥平役を演じる、岩崎う大 (C)2025「逆火」製作委員会