「これ以上、ここにいても学ぶことがない」と思った

 その夢をかなえるにはどうしたらいいか。調べてみると、俳優座とか文学座などの劇団に入るか、大学のサークル活動から劇団を結成するケースが多いことが分かりました。

 ただ、僕はどちらも気が進まなかった。歌や音楽を伴わないストレートプレイのお芝居も好きなのですが、レコードから聞いた音楽の世界をどうやってドラマ化するかが重要だったんです。ミュージカルですね。ただ、まだこの時代、日本では「ミュージカルなんて、女子供が見るもの」なんて言われ方をしていたんですよね。

 まあ、とにかく、まずは演劇を勉強しようと、演劇が学べる大学に入学しました。

 大学では充実した時間は過ごしたのですが、3年生になると、「これ以上、ここにいても学ぶことがない」と思ったんです。「今の自分に必要なのは学ぶことじゃなくて“実践”なんだ」と。

 そんなときに銀座の博品館劇場ができて、出演者のオーディションを受けに行きました。主演の岡田眞澄さんがオーディションの審査もしていて、「君はまだ大学生で学業もあるのに、舞台に出られるのか?」と聞かれました。「大学は辞めるから問題ない」と答えたのがよかったのか、そのオーディションには合格。それで大学を辞めようとしたら、父は大激怒です。結局、大学の信頼できる先生に家族で相談に行くことになったのですが、なんと先生が「この子は、早く大学を辞めたほうがいい」ってアドバイスをしてくれました (笑) 。先生は「この子は何かを持っている子かもしれない。でも今のままだと何もできずに終わるだろう。早く荒波に揉まれたほうがいい。それがご両親の役目です。そのかわり、一銭も援助しちゃダメですよ」と両親を説得してくれたんです。

(つづく)

宮本 亞門(みやもと あもん)
1958年、東京生まれ。演出家として、ミュージカル、ストレートプレイ、オペラ、歌舞伎などジャンルを問わず幅広く作品を手掛ける。2004年に東洋人初の演出家としてオンブロードウェイにて『太平洋序曲』を上演。トニー賞4部門にノミネートされた。

北陸能登復興支援映画
『生きがい IKIGAI』
企画・脚本・監督:宮本亞門
主演:鹿賀丈史(石川県出身)
出演:常盤貴子、根岸季衣、小林虎之介、津田寛治
地震による甚大な被害から8か月半後に、豪雨に見舞われた石川県の能登地方。現地でのボランティア活動に参加し、想像を超える被害と復興の遅れを目の当たりにした宮本が、地元の人々の声を聞き、言葉に触れて作られた一本だ。同時上映・ドキュメンタリー
『能登の声The Voice of Noto』
石川県での先行公開に続き、7月11日(金)よりシネスイッチ銀座 他順次公開(配給:スールキートス)
公式サイト: https://ikigai-movie.com/index.html