1970年に映画『高校生ブルース』で主演デビューし、『太陽にほえろ!』(日本テレビ系)では「シンコ」という警察官の役を演じ話題を集めた高橋惠子さん。様々なジャンルの作品に出演する彼女の「THE CHANGE」とはーー。【第2回/全2回】

『太陽にほえろ!』を離れて数年後休業して、都会を離れて暮らしました。舞台のお仕事で復帰することになっていましたが、公演直前に芝居をすることがとても怖くなってしまって。“降板させてください”と連絡をしたんです。
あの日のことは忘れられません。重苦しかったですね。時間が過ぎるのがとても遅くて……“1日とはこんなに長いものか”と、ただただ、じっとしていることしかできませんでした。
代わりに出てくださる方が見つかり、予定通り上演されましたが、公演期間中は毎晩のように舞台の夢にうなされました。不思議なことに、その後、自分が腎盂炎という病気を患うことで気持ちが楽になったんです。
約3年間は俳優の仕事から離れていたことになります。自分の人生で、そこだけが他の記憶と分断されていますね。振り返ると、貴重な時間だったのかもしれません。あの経験がなかったら、俳優業は続けられていなかったかもしれない、とも思います。
にっかつロマンポルノの『ラブレター』(81年)は、復帰2作目の作品でした。反戦・反骨、そして女性賛美の詩人といわれた金子光晴さんと、30歳以上年下の愛人との生活が描かれたノンフィクション作品がベースになっています。私が金子さんの詩が大好きだったことも、出演を決めた理由のひとつです。そして、中村嘉葎雄さん、仲谷昇さん、加賀まりこさんといった方々もご出演されて、ロマンポルノの枠を超えた作品になりました。
苦い思い出のあった舞台には、蜷川幸雄さん演出の『近松心中物語』(97年)をきっかけに、再び立たせてもらえるようになりました。今も舞台に出るたびに“ありがたい”と思っています。また、かつて公演に穴をあけたことへの償いにも似た気持ちを、演じることで果たしているのかもしれません。