メジャーとアウトサイダーのどちらも見なければ

 今年は、公開中の映画、『「桐島です」』に出演しています。夫である高橋伴明の監督作で、私はプロデューサーも務めました。

 連続企業爆破事件を起こした「東アジア反日武装戦線」のメンバーで、指名手配され、長い間逃亡生活を送った桐島聡の半生を描いています。最初は“世の中を良くしたい”と考えていた若者が、十字架を背負って生きていくーーその視点は、かつて高橋伴明が描いた、三菱銀行人質事件の犯人をモデルにした『TATTOO〈刺青〉あり』 (82年) や、連合赤軍の事件をモチーフとした『光の雨』(01年)にもつながります。罪を犯した人を取り上げ、一面的ではなく、その人物の心情に光を当てるのは、高橋の人に対する優しさなのだと思います。

 一方で、桐島の仲間たちが起こした「三菱重工爆破事件」でも、多くの方が犠牲になったという事実があります。本作に参加するにあたって改めて事件について調べ、お亡くなりになった方々やご家族、そしてお知り合いの方々へ、祈りを運びながら、撮影させていただきました。

 これまで、メジャーな娯楽作品にも出演しつつ、社会派作品や『「桐島です」』のような犯罪者が主人公の作品にも関わってきました。メジャーとアウトサイダーのどちらも見なければ、両方に出なければ、という感覚が私の中にあるんです。行ったり来たりしてきましたね。

 舞台でも、今年の春には、ナチスドイツと闘った弁護士とその母の物語(『真夜中に起こった出来事』)で、母親を演じました。

 一方で、6月からは(舞台)『サザエさん』で磯野フネさんを演じています。どちらも捨てがたい。欲張りなんですね (笑) 。

 今年、70歳になりましたが、まだまだ体力も、記憶力もあります。70代は、花盛りですよ。

高橋惠子(たかはしけいこ)
1955年1月22日生まれ、北海道出身。1970年、映画『高校生ブルース』で主演デビュー。主な出演作は、映画『旅の重さ』(72年)、『ふみ子の海』(79年)、『泥の河』(81年)、『ラッシュライフ』(98年)、『四月の永い夢』(2017年)、『赤目四十八瀧心中未遂』(03年)、『DOOR』(20年)など。ドラマでは、『泣くな青春』(72年/フジテレビ系)、『太陽にほえろ!』(73~78年/日本テレビ系)、『過ぎし日のセレナーデ』(89年/フジテレビ系)、『葵 徳川三代』(00年/NHK)、『ヒガンバナ~警視庁捜査七課~』(16年/日本テレビ系)などがある。最新映画『「桐島です」』では“謎の女”を演じる。

映画『「桐島です」』
1970年代に起きた連続企業爆破事件の指名手配犯で、49年間の逃亡生活の末、病死した桐島聡の人生を映画化。深い葛藤に苛まれながら偽名を使い逃亡していた桐島は、工務店で住み込みの職を得て静かな生活を送るが……「最期は本名で迎えたい」と名乗り出て、大きく報道された3日後にこの世を去った桐島聡の、数奇な道のりを描く。
出演:毎熊克哉 奥野瑛太 北香那 高橋惠子
監督:高橋伴明
脚本:梶原阿貴、高橋伴明
音楽:内田勘太郎
撮影監督:根岸憲一
配給:渋谷プロダクション
2025年/日本/カラー/アメリカンビスタ/5.1ch/日本語/105分
(c)北の丸プロダクション
新宿武蔵野館ほかにて公開中