川のことを悪く言う人がひとりもいなかった

 訪れた街が災害で一変するという経験をしただけに、人吉への、そして本作への思いは大きい。

「昨日行ったところが、今日、様変わりしてる。何があったんだろう、どうなるんだろうという、思いになりました。私は地元の人ではないけれど、どこか当事者のような意識を持ってニュースやその後も見てきたと思います」

 災害に見舞われた人吉。しかし本作の中ではその美しい景色が随所に描かれ、心を揺さぶる。

「本当に独特の美しさ…あの独特の“もやってる”感じ。あれが人吉なんですよね。もちろん今のような暑い時期のキーンとした青空に清流という景色も美しいんですけど、この映画で描かれてるような山間の町らしい靄(もや)がかかった中を濃い緑が広がって、滔々と川が流れるという景色。素晴らしいですよね」

©Misty Film

「この川自体が“暴れ川”と言われたりしますから、これまでにも何度となく水害はあったんですよね。その中で実際に家が流されてしまったという方にもお話をうかがったんですけど、私が聞いた中では、つらい目に遭っているんだけれども、川のことを悪く言う人がひとりもいなかったんです。今回は大変な目に遭ったけれど、でも、それ以上のものを私たちに与えてくれた川だから、って皆さんおっしゃるんです。その思いは本当に心打たれました」

 映画『囁きの河』では、中原丈雄さん演じる孝之と息子・文則(渡辺裕太さん)を軸に、様々な地元の人の生き方が描かれる。宮崎さんが演じたさとみは、孝之の隣人。思いを抱えながら前に進んでいる。

「それぞれが違う複雑な思いも抱えた人々の話なんですけど、川はふるさとそのもので、ご先祖様の時代から生き続けてきたもの、今だけじゃないものだと改めて考えさせられるんですよね。それが大げさでなく、淡々と描かれているから、とてもリアルだなと思います」