両方経験してわかった、テレビと落語の世界の違い

 テレビの世界と落語の世界、その違いをどう捉えているのだろうか。

「まずテレビをやってるときは他人との戦い、周りとの戦いじゃないですか。でも、落語って自分との戦いなんですよ。たぶんね、僕、こっち(落語)のほうが合ってたんですね。落語って、ものすごい真面目な世界。もちろんテレビも真面目やけど、でもこっちはもう段積み。ちょこちょこちょこちょこ一個ずつ積んでいかないといけない世界で。それは僕に合ってるんですね。5歳から剣道をやってたから、そういう気質が親父に刷り込まれたというのもあるんでしょうけど」

 そして落語の世界は「いただく」ものばかりだという。

「落語って“いただく”んですよ。例えば、テレビで僕がダウンタウンのネタをやったら、めっちゃ怒られるんですよ。何パクっとんねん、と。でも、落語はどうぞどうぞ、という世界。『手水回し』というネタがあって、亡くなった桂雀々師匠につけてもらったんですけど、その時、全部くれるんですよ。くすぐりもギャグも、『手水回し』の細かいところ、全部いただいてる。そして、それをいただいた人間がまた次にあげる。そういうのが落語にはめっちゃあるんですよ。

 僕からしたら、今までテレビで怒られてたのに、どうぞやってくれ、という世界に入って。いいんですか?これもくれるんですか?ありがたいという気持ちになりますよね。今までテレビの現場に行くときに、グゥっと牙をむいてたのが、落語の現場行ったら、常に“ありがとうございます”という姿勢。テレビのときは、“お前ら俺のことをおもろない思ってるんやろ!”みたいな感じで周りを見てたのが、今は“ありがとうございます”。感謝ですよ。考え方も変わってくる。これはね、人生にとってもめちゃくちゃいい効果ですよ」

 価値観の転換も生んだという落語との出合い。「段積みの世界」という落語界で、今新しい挑戦にも入っている。

 

(つづく)

つきてい・ほうせい
1968年2月15日生、兵庫県西宮市出身。山崎邦正名義で1988年にGSX(ガスペケ)というコンビを結成しデビュー。その後、相方の芸能界引退を機にピン芸人として活動、テレビ番組『ダウンタウンのガキの使いやあらへんで!』などに出演。2008年5月に月亭八方より「月亭方正」と名乗ることを許され高座に上がる。2012年より噺家としての活動に専念するため関西に拠点を移した。

(公演情報)
《東京》月亭方正落語会 月一方正噺
日時:2025年8月22日 (金)
開演:21:15
会場:新宿末廣亭
ゲスト: NON STYLE

《東京》月亭方正落語会 月一方正噺
日時:2025年9月12日 (金)
開演:21:15
会場:新宿末廣亭
ゲスト:ちょんまげラーメン